【創作論】掌編で学ぶ物語の終わらせ方

さて、久しぶりの掌編論です!
前回の創作論で、掌編やショートショートでは物語の構成を短期間で学べるので、経験値が高く美味しいという話をしました。

さて、そうは言ってもどう終わらせればいいのかわからない。
物語のたたみ方って難しいですよね。

なので、自作掌編を紹介解説しつつ、物語の終盤のパターンを3つほど紹介していこうと思います。



1.例1(オチをつける)

「侵略宇宙人」

【本文】
「相変わらず、勉強熱心ですね」
 部下のAは、私に言った。

 我々は、マリウス星人。
 移民先の惑星を求める者たちだ。

 故郷を失った我々は、宇宙に散り散りとなり、新しい故郷を探している。
 そして、我々はたどり着いたのだ。

 新しい故郷となるべき惑星に……。

「課長は、ずっとあの惑星のデータを見ていますからね」
 私は笑って答える。

「あの惑星、原住民は《地球》と呼んでいるが、あれは我々の希望なのだ。今回の作戦は、絶対に失敗できないのだ」

「それで、どうやって、あの惑星を奪うのですか? やはり、武力制圧ですか?」
 Aは、若者らしく威勢がいいい。

「あの惑星の原住民をなめないほうがいい。確かに、 宇宙関連の技術はまだ、発展途上だが、軍事技術に関しては優れたものがある。レーダーを無効化する飛行機、恐ろしい威力を持つ核兵器、ネットワークシステムを混乱させる技術。すべてが、宇宙規模でみても、一級品だ。武力衝突したら、われらも大きな損害を出してしまうだろう」

「では、どうやって、あの星を……」
 私はニヤリと笑う。

「わからないのか?」
「はい」

寝て待てばいいんだよ。そうすれば、やつらは自慢の軍事力で勝手に自滅してくれるよ。じゃあ、俺は二百年くらい昼寝してくるから……

2.例1解説

これは王道ですね。
物語にオチをつける。

「侵略宇宙人」は、太字部分のように人間の現状を皮肉るオチを用意しました。
分かりやすく言えば、「どんでん返し」のようなものを用意すればいいのです。

侵略宇宙人は、武力や謀略をつかって地球を攻撃すると普通の人は考える。
それを逆手にとって、人間の歴史の皮肉をぶつけて、静観すればいいという結末を用意してみました。

こうすれば、物語にオチがついて綺麗に幕を閉じることができます!

3.例2(終わらせない)

「不幸な男」

【本文】
おれは、不幸だ。
世界一不幸だ。
今日も本当についてなかった。

朝は7時におきた。おきたくなかった。本当はずっと寝ていたかったのにだ。
でも、おきてしまった。
太陽がカンカンとまぶしい。こんなんでは二度寝もできない。なんと不幸だろう。

朝食は目玉焼きとトーストとサラダ。
半熟たまごとベーコンのうまみ。
バターがとろけたトースト。
さっぱりした生野菜にクリーミーなドレッシング。

だが、おれは和食が食べたかったのだ。味噌汁と魚の気分だった。
こんなことを妻に言ったら確実にけんかになる。
「うん、うまい」
 こんなつまらないウソをつかなければいけない自分が悲しい。

でも、おいしかった。
会社に向かうために満員電車にのる。息苦しい。
こんなのって絶対におかしい。
痴漢に間違われたら一発で人生という名のゲームが終わってしまう。
人権侵害もいいところである。

 なんて日だ。
10時のコーヒータイムしか楽しみがない。
こうなったら隠しているチョコレートも食べてやる。

昼休みになった。
延々と続くつまらない事務仕事もいったん休憩。
今日の昼飯は妻が作ってくれた弁当。
魚の照り焼きとたまご焼き。袋の中にカップみそ汁も入っていた。
これが朝食だったらよかったのに。肉厚の魚をむさぼりながらそう考えた。

昼休み明け大きなトラブルが発生した。
取引先に発注した商品がまだ届かないのだ。
昨日の午前中までが期限だったのに。

「おまえのチェックが甘いからだ」
 と部長は大目玉。どうも新人が間違えたらしい。あのバカ佐藤め。

得意先に出向き、無理いって、手配してくれることになった。
こんな外出はいやだ。あとで佐藤に嫌味をいってやる。でも、無事に終わってよかった。

そんなトラブルのせいで定時を一時間過ぎての帰宅。コンビニでビールとつまみを買って帰る。
日は完全に暮れていた。まっくらな空にむかってため息とともにこうつぶやく。

「ああ、今日も不幸だったな」と。

4.例2解説

これもよくありますね。
あえて、終わらせない。
ちょっと、ずるい手法です。

例2の「不幸な男」ですが、この物語はまだ続きを書くことができます。
でも、あえてここで終わらせる。

よく週刊マンガ雑誌の、「俺たちの戦いはこれからだ」という打ち切りの仕方を思い浮かべてみればわかりやすいです。
あれと違うのは、編集さんではなくて、作家自身がそのタイミングを指定できること。

余韻が一番残る場所で、大胆に終わらせてしまう。
そうすれば、綺麗に物語を〆ることができます。

5.例3(感情を爆発させる)

「バイバイ」

【本文】
「バイバイ」
 彼女が最後に発した言葉はこれだった。
 もう夢のなかでしか会えないあのひと。

 最後のくちびるの味はもうおぼえていない。
 お互いに若かった。どうして、あんなことになってしまったのか。わからない。

 たぶん、彼女もそう思っているはずだ。
 もう日曜日の夕方。

 窓から見える風景もどんどん暗くなる。
 夕飯の買い物にいかなければいけない。

 ぼくは外に出た。
 歩いていると、彼女と似た背格好のひとを目で追ってしまう。

 こんなところにいるわけがないとわかっているのに。
「大好きだったよ」
 突然、彼女にそんな風に言われた気がした。

 涙があふれそうになる。暗くなっていく街にむかって、叫びたかった。
 のどが痛くなるほど叫びたかった。

「  」

 街灯が自分をあたたかく包んでくれていた。

6.例3解説

例1・2でも物語が終わらないのなら、ある意味最終手段です。
主人公の感情を爆発させる。

そして、その後に風景描写や手を差し伸べてくれる人を登場させて終わらせる。
やり方としては、2に近いです。

でも、2と決定的に違うのは、感情を爆発させてしまうことで、自分から余韻を作れるということ。
2は自然の流れを重視している一方、こちらは自分から流れを作っているのです。

だから、書き手は自分の好きなタイミングを自分から作れる。
ちょっと、強引すぎるかもしれませんが、これもよく使います。

7.総括

以上、私がよく使う3つの終わらせ方を書きました!
「未完の名作よりも、完成した駄作」という言葉もあります。

とりあえず、終わらせてみるというのは、書き手の読者に対する責任のようなものだと私は思います。
よかったら、ご参照ください。

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【自作小説】勇者旅立つ/新しいロボット

勇者旅立つ(ヒューマンドラマ)

【本文】
「それでは勇者よ、この道具をもって旅立つがよい。そちが魔王をうち滅ぼしてくることを期待しておるぞ」

 わたしは定型文となったいつものセリフを口にする。最初こそ気持ちをこめて言っていたが、今ではほんの義務的なセリフだ。

 ふくろに入っているのは、「剣」と「盾」、「薬草3枚」、「銀貨10枚」だ。最低限の装備と金。これで魔王軍と戦えというのは無茶振りだと自分でもわかっている。総額、銀貨20枚で世界を救えというのだからお笑いだ。

 この豪華な玉座の間から、いったい何人の勇者が旅立ったかもうおぼえていない。

「すでに半数以上の勇者が消息を絶っている」と大臣はいっていた。罪深いことをやっている。

 だが、なにもやらないわけにはいかない。このままでは民は魔物に苦しみ、怒りの矛先はわたしにむかってくるだろう。パニックによって人類は自壊し、魔物が支配する時代になる。

 すでに軍隊はなんども甚大な被害をうけている。もう打つ手はほかにない。月に銀貨数十枚を使い、民に希望をみせているというのが現実だ。

 政治パフォーマンスに若き勇者を使い、そして若者の命を浪費する。

「わたしは地獄に落ちるな」小声でつぶやく。

 それには気づかず勇者は誇らしげに階段を下りていった。



新しいロボット(SF)

【本文】
 テレビでニュースが流れていた。

「本日、アイザック社が新作のロボットを発表しました。これは人工知能ををもち、自律行動が可能です。また、人間以上に頑丈で、そしてものすごい力をもっています。技術革新によって1体20万円程度の価格となる予定だと発表されました。この発明によって、産業界は大きな変化が起きるでしょう」

 それは、本当に人間のようなロボットだった。
 精密な人工知能をもち、問題が発生したら自分で解決できてしまう。危険な場所でも活動できる。

 ただ、感情だけが欠如した人間。

 そんなふうにわたしは思った。
 彼らは危険な工事現場や原子炉などで、活躍することになるだろう。
 そして、量産化され壊れたら、20万円で交換されてしまうロボット。

 これから、かれらは量産体制に入り、危険な作業に従事し、
 そして、ほとんどが壊れていく。そう、それはかれらがロボットなのだから。

「まるで奴隷だな」とわたしはつぶやいた。
 これから生まれる英雄たちにできることなら、幸あらんことを。

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【自作小説】おやばなれ/ゆめ/第四次世界大戦

おやばなれ(寓話)

【本文】
 わたしのこどもたちは、おやばなれができない。

 もういい歳なのに。

 最初は、とてもかわいかった。

 はじめて、立ったとき、しゃべったとき本当に幸せだった。それはもう涙がでるほどに。

 わたしがかわいがりすぎたのかもしれない。

 彼らがおなかが空いたといえば、ご飯をあげた。寒いといえば、部屋の温度を上げた。

 しかし、かれらはどんどん増長した。

 わたしの大事にしている木を次つぎに切り倒し、かんたんにほかのものに暴力をふるってしまう。

 さらに、兄弟けんかは絶えない。

 挙句のはてに、「核兵器」というものをつくって、わたしの体すべてを傷つけようとしているし、貯金していた資源は掘りつくされはじめている。

 もう、わたしの我慢も限界だ。はやく、人間にはおやばなれしてほしいと切に願っている。



ゆめ(恋愛)

【本文】
 ゆめを見た。

 そのゆめの世界ではわたしはまだ彼と続いていて、ふたりはしあわせそうに連休の予定を話していた。
 ほんらいであればそうであった世界。
 わたしはそこに踏み入れてしまったのかもしれない。

 わたしであって、わたしではない彼女は、それをゆめだとわかっていた。

 お願いだから覚めないで、笑顔の私はずっとそう思っていた。

「大好……」
 いい終わる前に、夢は終わってしまった。
 今日は8月13日。
 きっとかれは家族のもとに向かう前に寄り道をしてくれたろだろう。

 外ではセミの鳴き声が響いていた……。



第四次世界大戦(ヒューマンドラマ)

【本文】
 ずっと昔、世界で「せんそう」というものが起きたらしい。
 とても大きな「せんそう」であったそうだ。

 というのも、ぼくたちはよく知らないのだ。

 むかしは「もじ」というもので、記録を残していたらしいが、「せんそう」ですべてきえてしまった。

 ひともいっぱい死んだらしい。
 だから、いまはなにもないし、なにもしらない。

 いま、ぼくたちは、洞窟で暮らしている。

 木の実や小さな動物を狩って、なんとか生き抜いている。

 おとうさんがかえってきた。でも、手にはなにも持っていない。

 残念。きょうの夕食はどんぐりだ。わびしいな。

 おかあさんの機嫌も悪くなる。

 けんかがはじまった。

「おとうさんの狩りが下手で困っちゃう」

「おまえだって、木の実盗み食いしてるだろう」

 怒ったおかあさんが、石を投げている。もちろん怪我しないように手加減しながら。

 おとうさんはこん棒で必死に石をはじいている。

 ぼくはふと思った。

 「せんそう」というものはこういうものなのかもしれない、と。

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【自作小説】台風の夜に/わたしはのっぺらぼう

台風の夜に(恋愛)

【本文】
「雨、強くなっちゃったね」
 わたしは彼に話しかける。
「うん」
「電車動いているかな?」
 答えがわかりきってることを聞いてしまった。
「動いてないだろう。泊まっていけよ」
「ありがとう」

 彼とは飲み会で出会った。あれからもう3か月。
 付き合っているようないないような不思議な関係。居心地はよいが、不安でもある。そんな関係。
 今日は宅飲みをしようと彼の家に遊びにきた。

 雨の音がどんどん強くなっていく。まるで世界がこの部屋だけになったようだ。
「台風がひどくなるまえに帰ろうと思ったんだけどな~」
 残ったチューハイを飲みながら、わたしはぼやく。

「おれももっと気にするべきだったよ。ごめん」

「いいよ、いいよ。楽しかったし」
 本音を隠しながらわたしは応じる。

「うん、今日も楽しかったよな。この前の水族館も」
「あの魚が美味しそうしか言ってなかった気がするよ」
「たしかに」
 ふたりで笑いあった。

 今日はたのしかった。彼と近くのスーパーにいって、お酒とつまみの材料を買ってきた。台所を借りての料理。じゃがいものチーズ焼きや簡単なサラダ。女子力のへったくれもない。でも、こんな未来があるのかなという期待感に包まれた幸せな時間だった。

「お酒をのんだから眠くなっちゃったね」
 彼はあくびをしている。
「そろそろ寝ようか」
 わたしは提案する。

「そうだね」
「うん」
 今日もなにもなかったかという複雑な気持ち。

「やっぱりわたしがソファーで寝るよ」
「お客様なんだから気にしないで」
 彼はやさしくつぶやく。

「ありがとう」
 彼のにおいに包まれて、ドキドキする。今日は眠れるかな。

「ねぇもう寝た?」
 わたしは定番の質問をする。

「……」
 彼はなにも言わなかった。寝ているのか、起きているのかわからない。

 雨戸が風で揺れている。

「大好きです」
 そう、わたしは小声でつぶやいた。



わたしはのっぺらぼう(ヒューマンドラマ)

【本文】
わたしはのっぺらぼう。

わたしの顔にはなにもない。

生まれたときには顔があった。

とてもかわいらしい顔だった。

お母さんはいつも泣いてばかりだった。

だから、よい子になろうと思った。よい子にならなくちゃいけなかった。

その日から、私は親や先生に逆らったことはない。

そして、わたしは顔を失ってしまった。

ある日突然顔がなくなってしまったのだ。

わたしは泣いた。目もないのに涙はでる。不思議だ。

そして、わたしは自分がなにもできないことに気がついた。

優等生だったのに、なにもできないことに。

わたしの顔はどこにいってしまったのだろう。

いまだに顔を探し続けている。

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【自作小説】つぎはぎの記憶/来世

つぎはぎの記憶(ヒューマンドラマ)

【本文】
 私は記憶のつぎはぎができる。
 記憶のつぎはぎ。

 簡単に言ってしまえば、都合の良いことはおぼえることができるし、悪いことは忘れてしまえる。

 それも自分の意志で。
 例えば、学生時代、教師に怒られたとする。気分はとても落ち込むだろう。
 でも、わたしはそれを3秒も引きずらない。
 なぜなら、それを簡単に忘れてしまうことができるのだから。

 私は3秒後に嫌なことは忘れてしまう。
 そして、忘れたこと自体、記憶には一切残らない。

 だから、わたしのなかの思い出はすべてが素晴らしいものばかりだ。
 すべての恋が初恋同然だし、黒歴史にもだえることもない。

 ある日、わたしは街で見知らぬ男に話しかけられた。
「久しぶりじゃん。元気だった」
 こういうことはよくある。
 たぶん、嫌なことをされた友だちか元カレだ。

「そうだね。元気だった。そっちは」
 話をあわせる。

「あの時はごめんな、じつはあの時……」
「いいよ、もう忘れた」
 私は冷たく言い放つ。
「そっか、そうだよな」
「うん、じゃあまた」
「ああ、また」

 この記憶も、私は数秒後に忘れてしまうだろう。

 ※

 彼女はどこかに行ってしまった。
「あの時、けんかにしなければな……」
「プロポーズしようと思っていたんだ、おれ」
 聴こえないはずの彼女に向かっておれはつぶやいた。



来世(恋愛)

【本文】
「久しぶりにいつものところで会わない?」
 わたしは久しぶりに彼女を遊びに誘ってしまった。

 やってしまったという後悔と、「OK」がもらえた喜び。
 複雑な心境というのはこういうことをいうんだろうな。

 いつもの店で、彼女を待つ。
 世間からすれば、ルール違反の行為かもしれない。
 それでも、自分では我慢できなかった。

 大好きなダルマのようなウィスキーを飲みながら、彼女を待つ。
 待ち合わせ時間ピッタリに彼女は到着した。

「久しぶり。1年ぶりくらい?」
「そうだね。何飲む?」
「どうしようかな」
 2人で昔話に花が咲いた。

 たのしいひと時だった。

「それで?なにかあった?」
「なにかないと会っちゃダメ?」
「その言葉からして、なにかあったでしょ」
 すべてお見通しらしい。

「うん、その」
 言葉を濁しながら、かくごを決めた。

「今度、結婚することになったんだ」
「そう、それはおめでとう。ついにだね」
「うん、ありがとう」
 新居のこと。式の日取り。ポツポツと話していく。

 楽しい2時間だった。
 最寄りの駅で解散。いつも通りだ。

 最後に彼女はいたずらっぽく聞いてきた。
「ねぇ、わたしのこと好きだったでしょう?」
 おれは少し考えて、こう答えた。

「それは来世にでも、答えるよ」
 答えているようで、答えていない不思議な回答。

 ふたりにとってはそれで充分だった。

 お互いに笑いあった。さわやかな笑い声だった。
「それじゃ、来世で」
 ふたりは解散した。

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【自作小説】不老不死の薬/革命家

不老不死の薬(歴史)

【本文】
「皇帝陛下、お望みの薬が出来上がりました」
 博士はわたしにひざまずいてそういった。
 運ばれてきたのは、それはとても輝かしい赤い個体であった。

「これにはどのような効果があるのかね?」
「おそれながら申し上げます、陛下。こちらはとある山奥で、とれた鉱物になります。熱すれば銀のように、輝かしいものになります。言い伝えによれば、これを服用することで、大地の力を体に蓄えることができるということです。さすれば、体の老化は止まり、体が鉱物のように頑丈となるでしょう」

「なるほど、それはすばらしいな。服用させていただこう。そちも飲むがよい」
 不老不死。
 なるほど体を老いることのない金属にしてしまえばよいのか。
 さすがは天才と呼び名が高い博士だ。

 ※
 1年後。

 はかせはしんだ。

 どうやらあの「くする」をのむのが、「おすかった」ようだ。
 
 わたしは「かかせ」よりも、わかい。

 ぜったいにでいじょうぶだ。

 すこし、はらがいはい。

 はやく、あの「くする」をのまなくては。



革命家(ヒューマンドラマ)

【本文】
7月9日

 俺たちは革命を目指している。

 おとなたちは、なにも変わろうとしない。

 世界の不公平には目をつむり、自分だけがよければそれでよいと本気で考えている。

 俺は、俺たちは、みんなが自由で公平な世界を創るのだ。

 あんな大人たちとは違うのだ。

 そのために、俺たちはデモをおこなうことなった。

 世界から不公平をなくすためのデモだ。

「政府がこれを認めるまで、おれたちは戦うぞ」と演説をすると、
 仲間たちが大きな歓声をあげてくれた。
 まるで、世界がひとつになったみたいな高揚感だ。

7月16日

 親からもらった仕送りが少なくなった。
 今月は少しピンチだ。
 でも、仲が良いメンバーとの飲み会は楽しい。

「この前の演説よかったな。警察と乱闘騒ぎになってけが人もでたけど」
「大義のためなら、多少の犠牲はしかたないよ。今度は国会に乗り込もうと思っている」
「いいな。おれも一緒にいくぜ」
 みんな威勢のよいことを言って楽しんだ。

 俺たちがいま、世界の中心にいる。多幸感に包まれた飲み会だった。
 
 ※

 ある日、わしは大学時代の日記をみつけた。とてもなつかしい思い出だ。
 しかし、結局、世界は変わらなかった。

 俺たちは普通に卒業して、普通に働いて、普通に退職した。
 いまでは年金暮らしである。

 世の中は不況が問題になっている。テレビのニュースでは、若者の貧困問題が特集されていた。
「まったく、さいきんの若者は情熱が足りんな」
 老いた革命家はそうつぶやいた。

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【自作小説】侵略宇宙人/孤島にて

侵略宇宙人(SF、新作)

【本文】
「相変わらず、勉強熱心ですね」
 部下のAは、私に言った。
 
 我々は、マリウス星人。
 移民先の惑星を求める者たちだ。

 故郷を失った我々は、宇宙に散り散りとなり、新しい故郷を探している。
 そして、我々はたどり着いたのだ。

 新しい故郷となるべき惑星に……。

「課長は、ずっとあの惑星のデータを見ていますからね」
 私は笑って答える。

「あの惑星、原住民は《地球》と呼んでいるが、あれは我々の希望なのだ。今回の作戦は、絶対に失敗できないのだ」

「それで、どうやって、あの惑星を奪うのですか? やはり、武力制圧ですか?」
 Aは、若者らしく威勢がいいい。

「あの惑星の原住民をなめないほうがいい。確かに、 宇宙関連の技術はまだ、発展途上だが、軍事技術に関しては優れたものがある。レーダーを無効化する飛行機、恐ろしい威力を持つ核兵器、ネットワークシステムを混乱させる技術。すべてが、宇宙規模でみても、一級品だ。武力衝突したら、われらも大きな損害を出してしまうだろう」

「では、どうやって、あの星を……」
 私はニヤリと笑う。

「わからないのか?」
「はい」

「寝て待てばいいんだよ。そうすれば、やつらは自慢の軍事力で勝手に自滅してくれるよ。じゃあ、俺は二百年くらい昼寝してくるから……」



孤島にて(ミステリーホラー、新作)

【本文】
 私たち四人は、今、無人島に閉じ込められている。
 
 サークルの夏合宿。
 不審死した大富豪が所有していた無人島でのキャンプ。
 大学生のバカなノリの三日間になるはずだった。

 でも、それが私たちにとって恐怖の三日間になってしまった。

 最初の日の夜。
 Aは死んでしまった。

 夕食のカレーを作った後、海岸の散歩に彼は行くと言っていた。
 私たちは花火の準備と片付けをしておくねと笑顔で彼を送り出した。

 私は台所で、食器類の片付け。
 Bは、花火の準備。
 Cは、テントの準備をしていた。

 私は、仮の台所で包丁などを洗っていた。
 肉を切ったので、包丁を丁寧に洗う。
 
 そうしていると、 花火の準備をしていたBの悲鳴が聞こえた。
 私たちは急いで、Bのもとにむかった。

 Aは、海岸で腹から血を流して倒れていた。
 Cが、脈をとってみたが、彼は首を横に振るだけだった。
 恋人を失ったBは、泣き崩れていた。

「もしかすると、この島には俺たち以外の人間がいるのかもしれない」
 Cは、真っ青な顔をしてそういう。

 私たちもうなづいた。
 このサークルメンバーに殺人鬼がいるなんて信じたくはなかった。

「今夜は交代で見張りをしながら、寝よう」
 Cの提案に私たちは同意した。

 二時間おきの交代。

 異変が起きたら、みんなを起こす。
 木の枝、ベルトなど、なにか、武器になるものを必死に集めた。

「おい、起きろ」 
 Cが私を起こした。
 どうやら交代の時間らしい。

「変化は?」
「特になし。大変なことになったな」
 Cは責任を感じているようだった。
 この合宿は、彼が計画したことだからだ。

「Cくんのせいじゃないよ」
 私はそう言って慰める。

「ありがとう。そう言ってもらえると、少しは気持ちが軽くなる」
「Cくん。まだ寝ないの?」
「ああ」
 私たちはしばらく雑談をかわした。

「実はさ。俺、おまえのことが好きだったんだ」
「どうして、このタイミングで」
「言えるときに、言っておかないとさ」
 彼の目は潤んでいた。

 私たちは、少しずつ顔を近づける。
 彼の吐息が、私を温めた……。

「武器になるものをここに置いておくね」
 私は彼にそう言った。

 朝起きたとき、C君の姿はなか った。
 私は、Bと一緒に彼を探した。
 そして、太い木に首をつった姿の彼を見つけてしまった。
 私たちは、泣き崩れた。

 二日目の夜まで、私たちは抱き合ってすごした。

 Aは、半狂乱だった。
 私もずっと彼女に抱き着いていたためか、手首が痛かった。

「どうしたの?」
 Aは私に聞いてきた。

「ちょっと、手首をひねっちゃったみたい」
 私はそう答えた。

 しばらくすると、Aは顔色が真っ青になって震え始めた。

「どうしたの?」
 私は心配になって聞く。

「私にわかっちゃったの。誰がみんなを殺したのか」
「本当?」
「うん」
「それで、誰が犯人なの?」
「私は殺される」
 彼女はなにかに取りつかれたかの ように、テントを飛び出した。
 私はあわてて、彼女を追いかけた。

「逃げないと、逃げないと」
 彼女はそう大声で叫んでいた。

「どうしたの? ねぇ、Aってば」
 私は彼女を必死に呼び止める。

「あなたは呪われている」
 崖の端で彼女は私にそう言った。

「どういうこと?」
 私はAに手を伸ばした。
 彼女は、何も言わずに崖から身を投げた。

「あっ」
 崖には、私だけが取り残された。
 風で、私の赤いワンピースがなびいている。

「みんな、いなくなっちゃたな」
 私はそうつぶやく。
 もう、誰も返事をしてくれなかった。

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【自作小説】海を求めた男/ば・く・だ・ん/詐欺師

海を求めた男(ヒューマンドラマ)

【本文】
 わたしは海をみたかった。
 我が故郷は山国である。

 あたり一面の緑と雪化粧。それはとても美しかった。
 わたしは故郷を愛している。

 だが、わたしは海を知ってしまった。
 青々とした美しいさと塩辛い水。ぜひともこれを見てみたい。

 家族は必死でわたしを引き留めた。それでもわたしはあきらめなかった。

 ある夏、ついにわたしは計画を実行した。わずかばかりの食料と水をもっての逃避行だ。
 海というものは東にあるらしい。わたしは東の方向にひたすら歩いた。

 1日、3日、1週間歩いた。
 しかし、山は続いていた。海はいっこうにみえてこない。

 途中、山賊に襲われ、わたしは命からがら逃げた。逃げた。逃げた。
 食料もほとんど無くなり、道中の親切な旅行者に塩漬け肉をわけてもらった。

 そして、わたしは今、山の頂上にいる。
 いったいいくつめの頂上かわからない。

 塩漬け肉をほおばり、水でながしこむ。
 しょっぱい肉と水が体にしみこんでいく。
 生きかえる。
 空を見上げた。雲ひとつない青空だった。

「海はこんなにそばにあったのか」
 わたしは清々しい気分でつぶやいた。



ば・く・だ・ん(ヒューマンドラマ)

【本文】
「火遊びはいけないよ」
 親はいつもぼくにこう言っていた。

 大人は本当に勝手だ。
 こどもに禁止しているのに、自分はライターやガスなど自由に使っている。

 ぼくだって火を使ってみたい。
 ぼくが口答えするといつもこう言う

「大人はいいの。火の使い方わかってるんだから」
 ある日、近所の家が火事になった。天ぷらの油の不始末らしい。
 家はとてもよく燃えていた。
 まるで、爆弾が爆発したみたいだ。

「大人だってちゃんと火をつかえてないじゃん」
 こころのなかでぼくはそうつぶやいた。

 そして、決心したのだ。
 ちゃんと火を使える大人になろうと。



詐欺師(ホラー、新作)

【本文】
 僕は人がいい。
 そんな風によく言われる。

 僕の短い人生の中で、何度も裏切られてきた。

 いじめの黒幕が親友だったり、恋人は僕のほかにも恋人がいた。
 彼らは、僕のお金が目的だった。

 だまされるたびに、周囲の人は僕に言うのだ。
「あなたは、優しすぎる」

 でも、それは間違っている。
 僕は、だまされているのではないのだ。
 僕は、彼らをだましているのである。

 すべては、僕の欲求のため……

 彼らが本性を明かしたとき、僕は高揚感に包まれる。
「ああ、これでまたひとり、僕は人を裏切ることができる」

 僕の服は、赤く染まっている。

※小説家になろうにも投稿しています。

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【自作小説】バイバイ/異教徒と聖戦

「バイバイ」

「バイバイ」
 彼女が最後に発した言葉はこれだった。
 もう夢のなかでしか会えないあのひと。

 最後のくちびるの味はもうおぼえていない。
 お互いに若かった。どうして、あんなことになってしまったのか。わからない。

 たぶん、彼女もそう思っているはずだ。
 もう日曜日の夕方。

 窓から見える風景もどんどん暗くなる。
 夕飯の買い物にいかなければいけない。

 ぼくは外に出た。
 歩いていると、彼女と似た背格好のひとを目で追ってしまう。

 こんなところにいるわけがないとわかっているのに。
「大好きだったよ」
 突然、彼女にそんな風に言われた気がした。

 涙があふれそうになる。暗くなっていく街にむかって、叫びたかった。
 のどが痛くなるほど叫びたかった。

「  」

 街灯が自分をあたたかく包んでくれていた。



「異教徒と聖戦」

 今日、ぼくたちの村は、異教徒によって占領された。
 彼らは、自分たちの信仰の聖地を異教徒から取り戻すために、ぼくたちの家に攻めてきた。
 大人たちは、必死に戦ったが……。

 ぼくたちは奴隷となるようだ。
 家にあった財産はすべてもっていかれてしまった。
 村の代表だった村長さんが、敵の兵士たちによって壇上にあげられた。

「処刑前に、言い残したことはないか?」
 敵の兵士は、冷たく言い放つ。

「きみたちは、どうしてわれらの村を占領したのだ」
「それは、われらが神のためだ」

「“神”。それはわたしたちが、信じる神とは違うのか?」
「ああ、違う。おまえらの“神”は偽物の神だ。わたしたちが信じる神こそが、正真正銘の唯一神である」

「そうか。では、おまえたちに、真実を教えてやろう」
「真実?」
「わたしが、真の神だ」
 村長さんは笑っていた。

「異教徒の上、神を語る不届き者め」
 怒りの表情をあらわにした兵士は処刑の準備をはじめた。

「異教徒であるわしらも、お主たちが信じている神によって創られたのではないかな」
 村長さんはなおも口を開く。

「ええい、早くこの者の口を閉じらせろ」
「おまえたちは、いま、“神”を殺すのだ」
 刃が村長さんの首にむかった……。

-数百年後-
「あなたは神を信じますか?」
 駅でそんな宗教勧誘にあった。

(科学全盛の時代に、神とか信じるわけないでしょ)

 おれはスマホをみて、勧誘を無視した。
 おれは哲学者の言葉を思い出す。
「神は死んだ」

※小説家になろうにも投稿しています。
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【自作小説】パン屋のおやじ

【自作小説】パン屋のおやじ(ヒューマンドラマ)

【本文】
 おれは小さいパン屋を経営している。
 超有名店というわけではないが、家族3人が食べていく分には問題ない。

 いわゆる、「町のパン屋さん」というのがしっくりくる。
 朝は4時に起きて、5時から勤務開始。

 サラリーマン時代によく遅刻していた俺が、よく続けられていると感心している。
 脱サラをする際は、妻が大反対すると思っていた。でも、こころよく賛成してくれた。

「いいじゃん、私パン好きだし」
「軽っ」
 思わず吹き出した。

 経営が安定するまではスーパーでバイトをしてくれて、今では仕込みの手伝いまでいる。
 口にはださないが、自慢の妻だ。

 生地をこねて、オーブンで焼く。
 同時並行で、バイトくんがパンの具のカレー、あんこ、クリーム、ウィンナー、焼きそばなどを用意する。
 バイトの山内くんも最近、慣れてきた。とても、頼りになる。

 そして、パンが焼きあがった。この瞬間、とても幸せな香りが調理場を包む。
 小麦とバターが作り出すあの幸せな香り。

 妻や山内くんといつもニヤニヤしてしまう時間だ。
 開店時間まで、あと15分。
 店にパンを並べはじめる。

 息子もそろそろ学校にいく時間だろう。
 最近、「お父さんの後を継いで、パン屋になりたい」といっているらしい。
 子どもに自分の仕事が認められるというのは、親冥利につきる。

 外では学生さんやサラリーマンの姿が見えてきた。
 もうすぐ、開店だ。
 今日も自分は生きていると感じている。

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