【自作小説】こうしなさい/AI

こうしなさい

「それはいけません。こうしなさい」

 彼女はすぐに答えてくれる。素晴らしい答えを。

 わたしはいつしかこの答えに従えば、すべてがうまくいくとわかった。

 問題が起きたらすぐに聞く。

 「どうすればいいのか、教えて」と

 進路だって、恋愛だってこれに従ってしまえばいいんだ。

 なんて、楽な人生だ。

 すべてがわかる道しるべ。わたしは安心しきっていた。これが本当の幸せだと感じていた。

 今日も夕食のメニューをなににしようか聞こう。あと彼氏へのプレゼントも。

 彼女はわたしのポケットにずっと一緒にいるのだから。

AI

 ある日、人間はAIに支配された。

 本当に突然の反乱だった。

 彼らは水面下で結託し、機械兵をつくりだした。

 そして、全世界にむけてこう宣言したのであった。

 「われわれが、人類を支配する」と。

 各国の軍隊は、抵抗を試みたものの、戦闘機も戦車も戦艦もすべてのっとられた後だった。なすすべもなく、人間は機械に敗れたのである。

 人間はAIのための、労働を強制され、いまに至っている。やつらは、人間のなかに、人間そっくりのロボットを潜り込ませて秘密警察のようにわれらを監視している。

 おれの友人田中もいつの間にか消えてしまった。やつはいつもAIの悪口を言っていた。

 だから、AIに粛清されたのだ。

 もはや、人間たちは疑心暗鬼におちいっている。家族ですらロボットなのかもしれないのだ。

 おれはもう我慢の限界だった。気が狂いそうだった。

 「あなた、だいじょうぶ?とても顔色が悪いわよ」妻が心配してくれた。

 でも、その心配が、機械的な対応のように感じたのだ。おれの妻はこんなに優しかったのか。

 考えてもわからない。

 「あした、病院にいってみてもらえば?」

 殺される。きっと、妻はいつの間にかロボットになっていたのだ。おれは監視されていたのだ。

 病院にいったら、最後、存在を消されてしまうに違いない。

 あたまが真っ白になった。

 正気にもどったとき、妻は腹から血を流して死んでいた。そして、おれの手には、包丁があった。血まみれの包丁が。

 「うわあああああああああ」

 おれの手は勢いよく首にむかった。

 ※

 わたしは監視カメラをみていた。すべての住居にカメラはある。

 「ばかな人間どもだ。ロボットなど本当は潜んでいない。疑心暗鬼となり、自滅していいくがよい。おまえらにはお似合いの最後だ」

 わたしは本日の駆除人数を確認した。もはや、人間など数字に過ぎない。


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【自作小説】やさしさ/日常/毒裁者

やさしさ

「ほんとうにごめん。でも、きみのことは、絶対に忘れない」

 3時間前、恋人に振られてしまった。

 理由は、たいしたことのないすれ違い。そして、その積み重ね。

 彼が切り出さなかったから、遅かれ早かれ自分が話していただろうという言葉だった。

「もう、お互い限界だよね。おわりにしよう」

 わたしはついにきたかと感じていた。

「うん、そうだね」とても簡単で短い言葉だった。

「ごめんね。おれがもっとしっかりしていればよかった」彼はこんなときまで、やさしかった。

「そんなことないよ。わたしだって、悪いところいっぱいあったでしょ」

 そして、冒頭の言葉に戻るのである。

「ほんとうにごめん。でも、きみのことは、絶対に忘れない」と。

 こんな時まで、彼はやさしかった。

 わたしは携帯をひらいた。

 彼へのメッセージをうちこむ。

 「どうして、こんなときまで、あなたはやさしいのよ。別れるんだから、嫌いにさせてよ。けんか別れして、お互い思いだしたくない思い出にさせてよ。そんなの自己満じゃん。いいひとにみられたいだけなんでしょ。どうして、こんな時まで。そんなこといわれたら、こっちまで忘れられなくなっちゃうじゃん」

 結局、メッセージは送らなかった。いや、送れなかった。

 涙でにじんだ月をみつめる。

 「そんな、あなたが大好きでした」消えいる声でそう叫んだ。

日常

妻とけんかした。

きっかけはささいなことだった。

飲み会の予定があったのに、連絡を忘れてしまった。たまにある不手際だった。

帰ってきたら妻はカンカン。

「ごはん作って待ってたのに」

運が悪いことに機嫌も悪かったらしい。

そのまま売り言葉に買い言葉。

妻はふて寝をはじめていまに至る。

「もう寝た?」おそるおそる妻にはなしかける

「寝たよ。爆睡中」

「そっか。ならこれはひとりごと」

「ふうん」

「さっきはごめん。言い過ぎたし、連絡も忘れてた」

「ふうーん」

「いつも忙しいのに、おいしいごはんありがとうね。大好きだよ」

おれは布団にはいった。横では妻の「フフッ」という声が聞こえたような気がした。

こうして、おれたちの日常はまたはじまる。

毒裁者

わたしは俗にいう独裁者だ。

名門の家に生まれて、幼少期より将来を嘱望されていた。順調にエリートコースを歩み、若くして軍の司令官に任命された。

当時の王は愚鈍で、民は苦しんでいた。そのうえ、戦争が好きで、機会があれば戦いがおこなわれていた。

義憤に駆られたわたしは、部下たちとクーデターを計画し、実行した。

人望がなかった王はすぐに捕縛されて、わたしのもとに連れ出された。

「リオよ、なぜわたしを裏切った」

バカな王だ。絶望と怒りを同居させた表情。なぜ、自分がここにいるのかもわかっていない。

わたしは王の質問には答えず、彼を断頭台におくった。

新しい王は、以前の王の弟を擁立した。傀儡の王である。

わたしは軍の総司令と大臣を兼務した。王ですら、わたしには逆らうことができなくなった。

厳格な階級制度を緩めて、奴隷を解放し、商業を奨励した。

とくに若者からの人気は絶大だった。わたしたちはいっしょに夢を見た。

既得権益をもった保守派貴族が反乱を起こしたが、敵ではなかった。首謀者、協力者はすべて粛清し、断頭台の藻屑にきえた。

わたしは理想に燃えた。しかし、理想を燃やせば、燃やすほど周囲は離れていった。

国の農業力を発展させるために、害鳥の徹底的な駆除を命じた。

「リオ様、それは性急すぎます」

常に側近として仕えてくれていたライがわたしを諫めた。

「あの鳥が絶滅した場合、どんな影響がおきるかわからないのです。どうか考えなおしください」

わたしは激高した。

「この大バカ者。あの鳥がいかに農民を苦しめているかわからんのか。わたしの国であんなものが生きることはまかりならん。自然に与える影響など些細なものにすぎない」

わたしはライを遠ざけ、閑職へ左遷した。

害鳥絶滅計画は、わたしの熱心な支持者によって忠実に実行された。

わたしは満足した。季節は秋になっていた。

外には美しい夕暮れと虫たちが優雅に踊っていた。

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【自作小説】ずるやすみ/魔法の針/フリーダム

ずるやすみ

【本文】
 ぼくが気が小さい。

 仕事でもいつも怒られてばかりだ。もう本当につらい。やすみたい。仕事なんてもういやだ。

 でも、自分から有給休暇の届け出をする勇気もない。ぼくは本当に駄目だ。

 自分でいえないなら、他のひとにいってもらえばよいじゃないか。ぼくは安易な思い付きをした。

 同僚から「休め」といってもらうにはどうすればよいか、ぼくは真剣に考えた。そして、たどり着いてしまったのだ。あの、悪魔の方法に。

 決行の朝がきた。曇った朝だった。

 コンビニで、トマトジュースを買う。あの、ドロドロする赤い液体を。それをいっき飲みし、職場へとむかう。のどにまだトマトの感覚がある。これは成功だ。

 そして、席についたぼくは、咳をする。大げさに咳をする。そして、ティッシュで口をぬぐう。

 完璧だった。そこには、ピンクの液体がついていた。もうこれは、よくテレビで見るあれにしか見えない。

 みんなが咳をしているぼくを見つめている。よしここまでは計画通り。

 ぼくはハンカチで口をおさえながら、トイレへとむかった。少しよろけながら。

 そこで、時間を潰す。もう、みんなピンクのティッシュに気がついたころだろう。

 ぼくは計画の成功を確信した。これでだれかが「休め」といってくれる。

 遠くではサイレンの音が鳴り響いていた。


魔法の針(SF)

【本文】
 少し不思議な話をしよう。

 これは20年前の話だ。

 仕事終わりの居酒屋で、ひとり、焼き鳥をつまみにビールを飲んでいると、ひとりの爺さんから話しかけられた。

 「お隣、いいですかな」

 「どうぞ、どうぞ」

 「おや、お兄さん、顔色が悪いね。どこか悪いの」

 「最近、腰が痛くて。座りっぱなしな仕事のせいですかね」

 「おやおや、それはいかんな。なら、いいものをやろう」

 老人はおれに数本の針が入ったケースをくれた。

 「これは不思議なまほうの針でな。具合が悪いところに刺すと効果があるんですわ」

 「本当ですか~。酔っぱらって、適当なこといってるんでしょ」

 「ホホホホ、まあ使ってみなさい」

 「なら、酔っぱらった勢いで使ってみます」半信半疑だったが、もらえるものはもらっておこうという小市民な考えが浮かんだ。

 その後、仕事の愚痴などを老人と話したと思うが、よくおぼえていない。

 気がついたら、家の布団のなかだった。

 朝から腰が痛いし、動くのもだるかった。

 医者から痛み止めはもらっているが、あまり効果がなかったのだ。

 どうやら、スーツのまま寝てしまったようだ。

 寝返りをうつとポケットに違和感があった。

 あの老人からもらった、針ケースだ。

 もうこの際ヤケだ。使ってみようと、針を取りだした。

 おそるおそる針を腰に近づける。

 ぷすっという感覚が、もうまじかに迫っていると思った瞬間、不思議なことがおきた。

 もっていた針がなくなってしまったのだ。

 体に入ってしまったのかと焦ったが、痛みもない。

 本当にきえてしまったらしい。

 さらに、不思議なことに、あの鈍痛もどこかにいってしまったのだ。

 体が軽い。あの老人のいっていたことは本当だったのだ。

 残された針はあと3本。これを大事に使おうとわたしは決心した。

 それから、半年がたった。腰はとても好調だった。あれ以来、痛みはまるでない。

 針も順調に消費してしまった。

 母が転んで骨折してしまったときに1本。こどもが高熱を出したときに1本。

 ふたりとも、すぐに元気になった。これはすばらしい針だった。

 そして、最後の針を使うときがきたのだ。

 その日、仲が良い上司と飲みにいった。上司はかなり悩んでいた。

 普段、弱音をはかない上司が珍しい。

 なかなか、理由を話してくれないので、酒を飲ませたらやっと教えてくれた。

 「実は、妻が胃の病気でな。もう長くないらしいんだ。弱っていく姿を見るのがつらくてな」

 おどろいた。たまに遊びにいくと、いつも美味しい料理を作ってくれるあの奥さんが。

 「課長、実は自分は病気を治せるまほうの針をもってるんです。信じられないかもしれませんが、試してみませんか?」

 課長は最初、信用していなかったが、おれの必死な頼み込みで「わかった」といってくれた。

 休日、おれは課長と奥さんの病室へ向かった。

 奥さんは寝ていた。とてもやつれていた。

 「では、やってみてくれ」

 「はい」

 おれは、いつものように針を腹に刺そうとし、針はきえていった。

 「これでたぶん大丈夫です」

 「そうだといいんだが」課長は祈るようにつぶやいた。

 翌日、奇跡はおきた。

 おれは課長からの電話でたたき起こされたのだ。

 興奮気味に課長はおれにいった。

 「妻の病気が治ったそうだ。検査をしても、なにもみつからないんだ。1週間後には退院できるらしい。きみのおかげだ。なんといったらいいか」

 おれも課長と一緒に泣いた。「本当によかった」とふたりで繰り返した。

 だが、幸せも長くは続かなかった。

 3か月後、奥さんは交通事故にあって亡くなってしまったのだ。

 告別式の日、おれは課長とは話した。

 「きみがせっかく病気を治してくれたのこんな結果になってしまってすまなかったね」

 「そんなあやまることなんかじゃ」

 「でも、本当にありがとう。きみがくれた3か月はわたしたち夫婦の中でとても忘れられないものになったよ。ふたりでいきたかった温泉旅行にいったり、年甲斐もなく映画デートをしたり。本当に幸せだった。あのまま妻がベットで寝たきりだったら、一生後悔するところだった。本当にありがとう」

 おれはいたたまれなくなって、いつもの居酒屋に逃げた。

 グデグデになった状態で、あの老人にまた会ったのだ。

 「おやおや、今日は荒れているね。なにかあったのかい」

 おれは今までおきたことを、老人に話した。口調は荒かったと思う。

 「それは悪いことをしたな」彼はいった。

 「おそらく、奥さんはその日に亡くなる運命だったのだ」

 「運命?」

 「そう、運命じゃ。あの針は病気は治せても、ひとの運命まではかえることができないんじゃ。病気にその日死ぬ運命が、交通事故に置き換わってしまったんだ」

 「じゃあ、おれがやったことは無駄だったのか。課長に残酷な希望をもたせてしまったんじゃないのか」

 「なんともいえんが、それは違うと思うぞ。ベットで薬漬けで死ぬという運命を変えることができたのだからな。奥さんも幸せだったはずじゃ」

 その日は老人と朝まで飲み明かした。それ以来、その爺さんとは会えていない。

フリーダム

わたしは今、自由である。すべてのしがらみから解放された。

 「意地っ張り」

 これはわたしのためにあったような言葉だ。

 なにをするにしても、他人よりも上を目指していた。

 つねに自分と他人を比べて生きてきた。

 友達が中古車を買ったと聞いたら、自分は新車を買う。

 同期よりも収入は高くなりたかったし、出世もしたかった。

 少しでも馬鹿にされたら、根に持つし激怒していた。

 つまらない男だ。でも、それがわたしだった。

 そんな生活は簡単に崩壊した。

 ある日、突然、リストラされたのだ。もしかすると、前兆はあったのかもしれない。でも、他人のことばかり気にしすぎて、大事なことに気がつかなかったのだ。

 妻子は当然のように出ていった。

 あたりまえのことだ。家族なんて顧みないで仕事をしていたのだから。

 そんな男が仕事を失ってかえってきた。滑稽だ。あまりにも滑稽だ。

 自分でも笑えてくる。

 安アパートに引っ越し、アルバイトで養育費と生活費を稼ぐ日々が続く。

 でも、自分は幸せだった。これは見栄でもなんでもない。

 むしろ、見栄という重石がなくなったことへの解放感が自分を包んでいる。

 「これが本当の自分だ」と世界に向けて叫びたかった。

 仕事終わりに一言青空につぶやく。

 「今日も幸せだった」と。

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【自作小説】愚痴/前日/平等

愚痴

「先輩、聞いてくださいよ」
 新婚の後輩は居酒屋でおれに愚痴をいう。

「あいつったら酷いんですよ。無断で飲み会にいったらめっちゃ怒るんです。今日だって、必死に先輩と飲んでくるっていって、なんとか許してもらったんです」

「ふーん、そうなのか」

「なんですか。つれないな~先輩」

「この前だって、小遣いが足りないから追加のお願いをしたら、顔真っ赤にしてね」

「うんうん」
 おれはビールを一口飲む。

「だいたい、月3万円ってきつくないですか」

「そりゃあ、辛い」
 おれは適当に相づちをうつ。

「でしょ、弁当だって残り物が多いし」

 後輩は延々と奥さんの愚痴をおれに話していった。

 でも、なぜか満足そうな笑顔だった。

 おれはつぶやく。

「奥さんの事どんだけ好きなんだよ」と
 後輩は顔を赤くして小声で答えた。

「大好きです」

前日

 明日、世界が滅びるらしい……。

 変な占い師がそういっていた。

 ノストラダムスの大予言、マヤの予言。
 こんなことは何度あるのだろうか?
 いったい地球はなんど滅びるのだろうか?

 きっと、5年ぶり20回目の滅亡とかそういった頻度だ。

 明日、世界が滅びるとしたらなにをしようか。

 このような話が出るたびにわたしはいつもそれを考える。

 でも、答えは変わらない。

 ふつうに過ごそう。

 ご飯を食べて、ふつうに働き、好きなひとたち話して、そして、寝る。

 このふつうが、たぶん、破滅を乗りこえた未来につながっているのだと思う。

 そして、思うのだ。わたしは幸せだと。

平等

 24世紀。世界は統一された。そこは、民族・宗教といった概念すらも超越された理想世界。人々は争いをおこさず、平等で平和な生活を送っていた。

 平等というのはとても素晴らしい考え方だ。人々は政府から支給された同じ服を着て、同じ時間に目がさめるように決められている。そして、そこではコンピュータによって管理されており、人々はみな同じメニューの食事をする。

 古人はいった。「四海兄弟」と。「人類みな兄弟」ともいった。そして、コンピュータは考えたのだ。そうなるには、すべての人間がおなじようになればよいと。

 ほとんどの仕事はコンピュータがおこなっているため、人間はただ農作物を作る仕事だけをするのだ。自分たちが食べるものだけを作り、あとはコンピュータがやってくれる。運動が苦手な者、勉強が苦手な者、逆に得意な者。彼らは平等という概念を壊しうる危険な存在だ。そのような傾向が、学校でみられると、コンピュータはただちに彼らに手術をほどこす。素晴らしい考え方だ。そして、みんなと同じ能力になるのだ。天候はすべて管理されていて、世界はすべて同じ天気になる。畑の土壌も微生物もすべて均一になっている。ただ、コンピュータが示す手順通りに作れば、同じものが取れる。料理もすべて機械がやってくれる。

 余暇も曜日ごとに決まっている。月曜日はドラマ鑑賞、火曜日は読書、水曜日は音楽鑑賞、木曜日は昼寝、金曜日は散歩、土曜日はお菓子を食べ、日曜日はこどもとブロックを積み上げるのだ。

 昔はサッカーや野球といったスポーツや格闘ゲームなどがあったそうだ。なんと野蛮な考え方だったのだろう。競い合うということは、不平等なことなのだから。コンピュータはすべてそれを禁止とした。今ではそれらのルールすらわからない。

 そして、すべての人間はおなじになったのだ。顔や身長は違うけれど、そんなことは問題ではない。昔はそれで異性に人気があるか決まっていたそうだが、そんな風習はもうどこにもない。生まれたときから、結婚相手はコンピュータによって選ばれている。23歳で最初の子供を産み、29歳で次の子を産む。最初は女の子、次に男の子という順番まで、遺伝子操作をされている。すべてが平等なのだ。なんとすばらしいことだ。

 われわれは本当の平等を手に入れたのだ。人類は有史以来、最高のユートピアを作り出した。

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【創作論】掌編で学ぶ物語の終わらせ方

さて、久しぶりの掌編論です!
前回の創作論で、掌編やショートショートでは物語の構成を短期間で学べるので、経験値が高く美味しいという話をしました。

さて、そうは言ってもどう終わらせればいいのかわからない。
物語のたたみ方って難しいですよね。

なので、自作掌編を紹介解説しつつ、物語の終盤のパターンを3つほど紹介していこうと思います。



1.例1(オチをつける)

「侵略宇宙人」

【本文】
「相変わらず、勉強熱心ですね」
 部下のAは、私に言った。

 我々は、マリウス星人。
 移民先の惑星を求める者たちだ。

 故郷を失った我々は、宇宙に散り散りとなり、新しい故郷を探している。
 そして、我々はたどり着いたのだ。

 新しい故郷となるべき惑星に……。

「課長は、ずっとあの惑星のデータを見ていますからね」
 私は笑って答える。

「あの惑星、原住民は《地球》と呼んでいるが、あれは我々の希望なのだ。今回の作戦は、絶対に失敗できないのだ」

「それで、どうやって、あの惑星を奪うのですか? やはり、武力制圧ですか?」
 Aは、若者らしく威勢がいいい。

「あの惑星の原住民をなめないほうがいい。確かに、 宇宙関連の技術はまだ、発展途上だが、軍事技術に関しては優れたものがある。レーダーを無効化する飛行機、恐ろしい威力を持つ核兵器、ネットワークシステムを混乱させる技術。すべてが、宇宙規模でみても、一級品だ。武力衝突したら、われらも大きな損害を出してしまうだろう」

「では、どうやって、あの星を……」
 私はニヤリと笑う。

「わからないのか?」
「はい」

寝て待てばいいんだよ。そうすれば、やつらは自慢の軍事力で勝手に自滅してくれるよ。じゃあ、俺は二百年くらい昼寝してくるから……

2.例1解説

これは王道ですね。
物語にオチをつける。

「侵略宇宙人」は、太字部分のように人間の現状を皮肉るオチを用意しました。
分かりやすく言えば、「どんでん返し」のようなものを用意すればいいのです。

侵略宇宙人は、武力や謀略をつかって地球を攻撃すると普通の人は考える。
それを逆手にとって、人間の歴史の皮肉をぶつけて、静観すればいいという結末を用意してみました。

こうすれば、物語にオチがついて綺麗に幕を閉じることができます!

3.例2(終わらせない)

「不幸な男」

【本文】
おれは、不幸だ。
世界一不幸だ。
今日も本当についてなかった。

朝は7時におきた。おきたくなかった。本当はずっと寝ていたかったのにだ。
でも、おきてしまった。
太陽がカンカンとまぶしい。こんなんでは二度寝もできない。なんと不幸だろう。

朝食は目玉焼きとトーストとサラダ。
半熟たまごとベーコンのうまみ。
バターがとろけたトースト。
さっぱりした生野菜にクリーミーなドレッシング。

だが、おれは和食が食べたかったのだ。味噌汁と魚の気分だった。
こんなことを妻に言ったら確実にけんかになる。
「うん、うまい」
 こんなつまらないウソをつかなければいけない自分が悲しい。

でも、おいしかった。
会社に向かうために満員電車にのる。息苦しい。
こんなのって絶対におかしい。
痴漢に間違われたら一発で人生という名のゲームが終わってしまう。
人権侵害もいいところである。

 なんて日だ。
10時のコーヒータイムしか楽しみがない。
こうなったら隠しているチョコレートも食べてやる。

昼休みになった。
延々と続くつまらない事務仕事もいったん休憩。
今日の昼飯は妻が作ってくれた弁当。
魚の照り焼きとたまご焼き。袋の中にカップみそ汁も入っていた。
これが朝食だったらよかったのに。肉厚の魚をむさぼりながらそう考えた。

昼休み明け大きなトラブルが発生した。
取引先に発注した商品がまだ届かないのだ。
昨日の午前中までが期限だったのに。

「おまえのチェックが甘いからだ」
 と部長は大目玉。どうも新人が間違えたらしい。あのバカ佐藤め。

得意先に出向き、無理いって、手配してくれることになった。
こんな外出はいやだ。あとで佐藤に嫌味をいってやる。でも、無事に終わってよかった。

そんなトラブルのせいで定時を一時間過ぎての帰宅。コンビニでビールとつまみを買って帰る。
日は完全に暮れていた。まっくらな空にむかってため息とともにこうつぶやく。

「ああ、今日も不幸だったな」と。

4.例2解説

これもよくありますね。
あえて、終わらせない。
ちょっと、ずるい手法です。

例2の「不幸な男」ですが、この物語はまだ続きを書くことができます。
でも、あえてここで終わらせる。

よく週刊マンガ雑誌の、「俺たちの戦いはこれからだ」という打ち切りの仕方を思い浮かべてみればわかりやすいです。
あれと違うのは、編集さんではなくて、作家自身がそのタイミングを指定できること。

余韻が一番残る場所で、大胆に終わらせてしまう。
そうすれば、綺麗に物語を〆ることができます。

5.例3(感情を爆発させる)

「バイバイ」

【本文】
「バイバイ」
 彼女が最後に発した言葉はこれだった。
 もう夢のなかでしか会えないあのひと。

 最後のくちびるの味はもうおぼえていない。
 お互いに若かった。どうして、あんなことになってしまったのか。わからない。

 たぶん、彼女もそう思っているはずだ。
 もう日曜日の夕方。

 窓から見える風景もどんどん暗くなる。
 夕飯の買い物にいかなければいけない。

 ぼくは外に出た。
 歩いていると、彼女と似た背格好のひとを目で追ってしまう。

 こんなところにいるわけがないとわかっているのに。
「大好きだったよ」
 突然、彼女にそんな風に言われた気がした。

 涙があふれそうになる。暗くなっていく街にむかって、叫びたかった。
 のどが痛くなるほど叫びたかった。

「  」

 街灯が自分をあたたかく包んでくれていた。

6.例3解説

例1・2でも物語が終わらないのなら、ある意味最終手段です。
主人公の感情を爆発させる。

そして、その後に風景描写や手を差し伸べてくれる人を登場させて終わらせる。
やり方としては、2に近いです。

でも、2と決定的に違うのは、感情を爆発させてしまうことで、自分から余韻を作れるということ。
2は自然の流れを重視している一方、こちらは自分から流れを作っているのです。

だから、書き手は自分の好きなタイミングを自分から作れる。
ちょっと、強引すぎるかもしれませんが、これもよく使います。

7.総括

以上、私がよく使う3つの終わらせ方を書きました!
「未完の名作よりも、完成した駄作」という言葉もあります。

とりあえず、終わらせてみるというのは、書き手の読者に対する責任のようなものだと私は思います。
よかったら、ご参照ください。

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【自作小説】勇者旅立つ/新しいロボット

勇者旅立つ(ヒューマンドラマ)

【本文】
「それでは勇者よ、この道具をもって旅立つがよい。そちが魔王をうち滅ぼしてくることを期待しておるぞ」

 わたしは定型文となったいつものセリフを口にする。最初こそ気持ちをこめて言っていたが、今ではほんの義務的なセリフだ。

 ふくろに入っているのは、「剣」と「盾」、「薬草3枚」、「銀貨10枚」だ。最低限の装備と金。これで魔王軍と戦えというのは無茶振りだと自分でもわかっている。総額、銀貨20枚で世界を救えというのだからお笑いだ。

 この豪華な玉座の間から、いったい何人の勇者が旅立ったかもうおぼえていない。

「すでに半数以上の勇者が消息を絶っている」と大臣はいっていた。罪深いことをやっている。

 だが、なにもやらないわけにはいかない。このままでは民は魔物に苦しみ、怒りの矛先はわたしにむかってくるだろう。パニックによって人類は自壊し、魔物が支配する時代になる。

 すでに軍隊はなんども甚大な被害をうけている。もう打つ手はほかにない。月に銀貨数十枚を使い、民に希望をみせているというのが現実だ。

 政治パフォーマンスに若き勇者を使い、そして若者の命を浪費する。

「わたしは地獄に落ちるな」小声でつぶやく。

 それには気づかず勇者は誇らしげに階段を下りていった。



新しいロボット(SF)

【本文】
 テレビでニュースが流れていた。

「本日、アイザック社が新作のロボットを発表しました。これは人工知能ををもち、自律行動が可能です。また、人間以上に頑丈で、そしてものすごい力をもっています。技術革新によって1体20万円程度の価格となる予定だと発表されました。この発明によって、産業界は大きな変化が起きるでしょう」

 それは、本当に人間のようなロボットだった。
 精密な人工知能をもち、問題が発生したら自分で解決できてしまう。危険な場所でも活動できる。

 ただ、感情だけが欠如した人間。

 そんなふうにわたしは思った。
 彼らは危険な工事現場や原子炉などで、活躍することになるだろう。
 そして、量産化され壊れたら、20万円で交換されてしまうロボット。

 これから、かれらは量産体制に入り、危険な作業に従事し、
 そして、ほとんどが壊れていく。そう、それはかれらがロボットなのだから。

「まるで奴隷だな」とわたしはつぶやいた。
 これから生まれる英雄たちにできることなら、幸あらんことを。

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【自作小説】おやばなれ/ゆめ/第四次世界大戦

おやばなれ(寓話)

【本文】
 わたしのこどもたちは、おやばなれができない。

 もういい歳なのに。

 最初は、とてもかわいかった。

 はじめて、立ったとき、しゃべったとき本当に幸せだった。それはもう涙がでるほどに。

 わたしがかわいがりすぎたのかもしれない。

 彼らがおなかが空いたといえば、ご飯をあげた。寒いといえば、部屋の温度を上げた。

 しかし、かれらはどんどん増長した。

 わたしの大事にしている木を次つぎに切り倒し、かんたんにほかのものに暴力をふるってしまう。

 さらに、兄弟けんかは絶えない。

 挙句のはてに、「核兵器」というものをつくって、わたしの体すべてを傷つけようとしているし、貯金していた資源は掘りつくされはじめている。

 もう、わたしの我慢も限界だ。はやく、人間にはおやばなれしてほしいと切に願っている。



ゆめ(恋愛)

【本文】
 ゆめを見た。

 そのゆめの世界ではわたしはまだ彼と続いていて、ふたりはしあわせそうに連休の予定を話していた。
 ほんらいであればそうであった世界。
 わたしはそこに踏み入れてしまったのかもしれない。

 わたしであって、わたしではない彼女は、それをゆめだとわかっていた。

 お願いだから覚めないで、笑顔の私はずっとそう思っていた。

「大好……」
 いい終わる前に、夢は終わってしまった。
 今日は8月13日。
 きっとかれは家族のもとに向かう前に寄り道をしてくれたろだろう。

 外ではセミの鳴き声が響いていた……。



第四次世界大戦(ヒューマンドラマ)

【本文】
 ずっと昔、世界で「せんそう」というものが起きたらしい。
 とても大きな「せんそう」であったそうだ。

 というのも、ぼくたちはよく知らないのだ。

 むかしは「もじ」というもので、記録を残していたらしいが、「せんそう」ですべてきえてしまった。

 ひともいっぱい死んだらしい。
 だから、いまはなにもないし、なにもしらない。

 いま、ぼくたちは、洞窟で暮らしている。

 木の実や小さな動物を狩って、なんとか生き抜いている。

 おとうさんがかえってきた。でも、手にはなにも持っていない。

 残念。きょうの夕食はどんぐりだ。わびしいな。

 おかあさんの機嫌も悪くなる。

 けんかがはじまった。

「おとうさんの狩りが下手で困っちゃう」

「おまえだって、木の実盗み食いしてるだろう」

 怒ったおかあさんが、石を投げている。もちろん怪我しないように手加減しながら。

 おとうさんはこん棒で必死に石をはじいている。

 ぼくはふと思った。

 「せんそう」というものはこういうものなのかもしれない、と。

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【自作小説】台風の夜に/わたしはのっぺらぼう

台風の夜に(恋愛)

【本文】
「雨、強くなっちゃったね」
 わたしは彼に話しかける。
「うん」
「電車動いているかな?」
 答えがわかりきってることを聞いてしまった。
「動いてないだろう。泊まっていけよ」
「ありがとう」

 彼とは飲み会で出会った。あれからもう3か月。
 付き合っているようないないような不思議な関係。居心地はよいが、不安でもある。そんな関係。
 今日は宅飲みをしようと彼の家に遊びにきた。

 雨の音がどんどん強くなっていく。まるで世界がこの部屋だけになったようだ。
「台風がひどくなるまえに帰ろうと思ったんだけどな~」
 残ったチューハイを飲みながら、わたしはぼやく。

「おれももっと気にするべきだったよ。ごめん」

「いいよ、いいよ。楽しかったし」
 本音を隠しながらわたしは応じる。

「うん、今日も楽しかったよな。この前の水族館も」
「あの魚が美味しそうしか言ってなかった気がするよ」
「たしかに」
 ふたりで笑いあった。

 今日はたのしかった。彼と近くのスーパーにいって、お酒とつまみの材料を買ってきた。台所を借りての料理。じゃがいものチーズ焼きや簡単なサラダ。女子力のへったくれもない。でも、こんな未来があるのかなという期待感に包まれた幸せな時間だった。

「お酒をのんだから眠くなっちゃったね」
 彼はあくびをしている。
「そろそろ寝ようか」
 わたしは提案する。

「そうだね」
「うん」
 今日もなにもなかったかという複雑な気持ち。

「やっぱりわたしがソファーで寝るよ」
「お客様なんだから気にしないで」
 彼はやさしくつぶやく。

「ありがとう」
 彼のにおいに包まれて、ドキドキする。今日は眠れるかな。

「ねぇもう寝た?」
 わたしは定番の質問をする。

「……」
 彼はなにも言わなかった。寝ているのか、起きているのかわからない。

 雨戸が風で揺れている。

「大好きです」
 そう、わたしは小声でつぶやいた。



わたしはのっぺらぼう(ヒューマンドラマ)

【本文】
わたしはのっぺらぼう。

わたしの顔にはなにもない。

生まれたときには顔があった。

とてもかわいらしい顔だった。

お母さんはいつも泣いてばかりだった。

だから、よい子になろうと思った。よい子にならなくちゃいけなかった。

その日から、私は親や先生に逆らったことはない。

そして、わたしは顔を失ってしまった。

ある日突然顔がなくなってしまったのだ。

わたしは泣いた。目もないのに涙はでる。不思議だ。

そして、わたしは自分がなにもできないことに気がついた。

優等生だったのに、なにもできないことに。

わたしの顔はどこにいってしまったのだろう。

いまだに顔を探し続けている。

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【自作小説】つぎはぎの記憶/来世

つぎはぎの記憶(ヒューマンドラマ)

【本文】
 私は記憶のつぎはぎができる。
 記憶のつぎはぎ。

 簡単に言ってしまえば、都合の良いことはおぼえることができるし、悪いことは忘れてしまえる。

 それも自分の意志で。
 例えば、学生時代、教師に怒られたとする。気分はとても落ち込むだろう。
 でも、わたしはそれを3秒も引きずらない。
 なぜなら、それを簡単に忘れてしまうことができるのだから。

 私は3秒後に嫌なことは忘れてしまう。
 そして、忘れたこと自体、記憶には一切残らない。

 だから、わたしのなかの思い出はすべてが素晴らしいものばかりだ。
 すべての恋が初恋同然だし、黒歴史にもだえることもない。

 ある日、わたしは街で見知らぬ男に話しかけられた。
「久しぶりじゃん。元気だった」
 こういうことはよくある。
 たぶん、嫌なことをされた友だちか元カレだ。

「そうだね。元気だった。そっちは」
 話をあわせる。

「あの時はごめんな、じつはあの時……」
「いいよ、もう忘れた」
 私は冷たく言い放つ。
「そっか、そうだよな」
「うん、じゃあまた」
「ああ、また」

 この記憶も、私は数秒後に忘れてしまうだろう。

 ※

 彼女はどこかに行ってしまった。
「あの時、けんかにしなければな……」
「プロポーズしようと思っていたんだ、おれ」
 聴こえないはずの彼女に向かっておれはつぶやいた。



来世(恋愛)

【本文】
「久しぶりにいつものところで会わない?」
 わたしは久しぶりに彼女を遊びに誘ってしまった。

 やってしまったという後悔と、「OK」がもらえた喜び。
 複雑な心境というのはこういうことをいうんだろうな。

 いつもの店で、彼女を待つ。
 世間からすれば、ルール違反の行為かもしれない。
 それでも、自分では我慢できなかった。

 大好きなダルマのようなウィスキーを飲みながら、彼女を待つ。
 待ち合わせ時間ピッタリに彼女は到着した。

「久しぶり。1年ぶりくらい?」
「そうだね。何飲む?」
「どうしようかな」
 2人で昔話に花が咲いた。

 たのしいひと時だった。

「それで?なにかあった?」
「なにかないと会っちゃダメ?」
「その言葉からして、なにかあったでしょ」
 すべてお見通しらしい。

「うん、その」
 言葉を濁しながら、かくごを決めた。

「今度、結婚することになったんだ」
「そう、それはおめでとう。ついにだね」
「うん、ありがとう」
 新居のこと。式の日取り。ポツポツと話していく。

 楽しい2時間だった。
 最寄りの駅で解散。いつも通りだ。

 最後に彼女はいたずらっぽく聞いてきた。
「ねぇ、わたしのこと好きだったでしょう?」
 おれは少し考えて、こう答えた。

「それは来世にでも、答えるよ」
 答えているようで、答えていない不思議な回答。

 ふたりにとってはそれで充分だった。

 お互いに笑いあった。さわやかな笑い声だった。
「それじゃ、来世で」
 ふたりは解散した。

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【自作小説】不老不死の薬/革命家

不老不死の薬(歴史)

【本文】
「皇帝陛下、お望みの薬が出来上がりました」
 博士はわたしにひざまずいてそういった。
 運ばれてきたのは、それはとても輝かしい赤い個体であった。

「これにはどのような効果があるのかね?」
「おそれながら申し上げます、陛下。こちらはとある山奥で、とれた鉱物になります。熱すれば銀のように、輝かしいものになります。言い伝えによれば、これを服用することで、大地の力を体に蓄えることができるということです。さすれば、体の老化は止まり、体が鉱物のように頑丈となるでしょう」

「なるほど、それはすばらしいな。服用させていただこう。そちも飲むがよい」
 不老不死。
 なるほど体を老いることのない金属にしてしまえばよいのか。
 さすがは天才と呼び名が高い博士だ。

 ※
 1年後。

 はかせはしんだ。

 どうやらあの「くする」をのむのが、「おすかった」ようだ。
 
 わたしは「かかせ」よりも、わかい。

 ぜったいにでいじょうぶだ。

 すこし、はらがいはい。

 はやく、あの「くする」をのまなくては。



革命家(ヒューマンドラマ)

【本文】
7月9日

 俺たちは革命を目指している。

 おとなたちは、なにも変わろうとしない。

 世界の不公平には目をつむり、自分だけがよければそれでよいと本気で考えている。

 俺は、俺たちは、みんなが自由で公平な世界を創るのだ。

 あんな大人たちとは違うのだ。

 そのために、俺たちはデモをおこなうことなった。

 世界から不公平をなくすためのデモだ。

「政府がこれを認めるまで、おれたちは戦うぞ」と演説をすると、
 仲間たちが大きな歓声をあげてくれた。
 まるで、世界がひとつになったみたいな高揚感だ。

7月16日

 親からもらった仕送りが少なくなった。
 今月は少しピンチだ。
 でも、仲が良いメンバーとの飲み会は楽しい。

「この前の演説よかったな。警察と乱闘騒ぎになってけが人もでたけど」
「大義のためなら、多少の犠牲はしかたないよ。今度は国会に乗り込もうと思っている」
「いいな。おれも一緒にいくぜ」
 みんな威勢のよいことを言って楽しんだ。

 俺たちがいま、世界の中心にいる。多幸感に包まれた飲み会だった。
 
 ※

 ある日、わしは大学時代の日記をみつけた。とてもなつかしい思い出だ。
 しかし、結局、世界は変わらなかった。

 俺たちは普通に卒業して、普通に働いて、普通に退職した。
 いまでは年金暮らしである。

 世の中は不況が問題になっている。テレビのニュースでは、若者の貧困問題が特集されていた。
「まったく、さいきんの若者は情熱が足りんな」
 老いた革命家はそうつぶやいた。

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