『夜の来訪者』ネタバレ有書評

深い業と不幸の連鎖
 さて、今日の書評はプリ―ストリー作、安藤貞雄訳『夜の来訪者』(岩波文庫)です。

 (あらすじ)
 とある実業家一家の娘の婚約パーティーに、「とある女性が自殺した」という話が警部を名乗る謎の男からもたらされる。「なぜそんな話を?」と不思議がる家族たち。しかし、それは家族たちの本性が暴かれる序章に過ぎなかった。いくつもの因果の連鎖と衝撃の結末。

 (感想)
 この本の結末は衝撃的で、さらに皮肉的な内容です。好き嫌いが分かれるとは思いますが自分は大好きになりました。記憶喪失になった時、一番最初にこれを読みたいと思っているほど大好きなラスト。

 全員が無関係だと思っていた女性の自殺が全て裏では繋がっていて、家族一人一人の業を暴きだしていく。しかし、それだけで終わらないのがこの作品。すべてが終わったと思ったら、再び無限地獄に突き落とされてしまう。

 この物語自体が何かのメタファーのような気もします。ある意味では人が生きることを表現したようなそんなイメージ。ネタバレを極力さけようとするとうまく感想がかけませんが非常におススメです。あとでネタバレ有の感想を書きたいです。

以下、ネタバレです。ご注意ください。

さて、この本は「とある女がなぜ自殺したのか」を警部が暴いていくミステリー風な戯曲です。原因となっていた実業家家族は、警部の追及をとぼけますが、一人一人と追求から逃げられなくなっていく。そして、意図してはいないが、家族全員が自殺の原因を作っていたのだったことが最終的に判明します。この追及や家族の因果、伏線が最後にすべて繋がる演出は鮮やかで驚かされます。しかし、それだけで終わらないのがこの本の凄いところ。

 家族は警部が去った後、実はあの警部が偽物であり、女も自殺していないのではないかと疑問に思う家族たち。そこに電話がかかってきます。「とある女性が自殺した。警部がそちらに向かっている」と。

 物語はここで終わりを迎えます。偽の警部とはいったい誰だったのか?。家族全員が白昼夢をみていたのか?

 私は警部が「人間を超越したものの化身」で「良心」を具現化したような存在だと思っています。一種の文明批判をこの作品から読み取りました。文明化したことによって、他者を憐れむという人間性を失っていくヒトたちへの警鐘。この作品自体が読者が見る白昼夢であり、人間性を失えばいつあなたのもとに警部が来るかもしれませんよという警告ではないでしょうか?。私はそのように思っています。