【自作小説】おやばなれ/ゆめ/第四次世界大戦

おやばなれ(寓話)

【本文】
 わたしのこどもたちは、おやばなれができない。

 もういい歳なのに。

 最初は、とてもかわいかった。

 はじめて、立ったとき、しゃべったとき本当に幸せだった。それはもう涙がでるほどに。

 わたしがかわいがりすぎたのかもしれない。

 彼らがおなかが空いたといえば、ご飯をあげた。寒いといえば、部屋の温度を上げた。

 しかし、かれらはどんどん増長した。

 わたしの大事にしている木を次つぎに切り倒し、かんたんにほかのものに暴力をふるってしまう。

 さらに、兄弟けんかは絶えない。

 挙句のはてに、「核兵器」というものをつくって、わたしの体すべてを傷つけようとしているし、貯金していた資源は掘りつくされはじめている。

 もう、わたしの我慢も限界だ。はやく、人間にはおやばなれしてほしいと切に願っている。



ゆめ(恋愛)

【本文】
 ゆめを見た。

 そのゆめの世界ではわたしはまだ彼と続いていて、ふたりはしあわせそうに連休の予定を話していた。
 ほんらいであればそうであった世界。
 わたしはそこに踏み入れてしまったのかもしれない。

 わたしであって、わたしではない彼女は、それをゆめだとわかっていた。

 お願いだから覚めないで、笑顔の私はずっとそう思っていた。

「大好……」
 いい終わる前に、夢は終わってしまった。
 今日は8月13日。
 きっとかれは家族のもとに向かう前に寄り道をしてくれたろだろう。

 外ではセミの鳴き声が響いていた……。



第四次世界大戦(ヒューマンドラマ)

【本文】
 ずっと昔、世界で「せんそう」というものが起きたらしい。
 とても大きな「せんそう」であったそうだ。

 というのも、ぼくたちはよく知らないのだ。

 むかしは「もじ」というもので、記録を残していたらしいが、「せんそう」ですべてきえてしまった。

 ひともいっぱい死んだらしい。
 だから、いまはなにもないし、なにもしらない。

 いま、ぼくたちは、洞窟で暮らしている。

 木の実や小さな動物を狩って、なんとか生き抜いている。

 おとうさんがかえってきた。でも、手にはなにも持っていない。

 残念。きょうの夕食はどんぐりだ。わびしいな。

 おかあさんの機嫌も悪くなる。

 けんかがはじまった。

「おとうさんの狩りが下手で困っちゃう」

「おまえだって、木の実盗み食いしてるだろう」

 怒ったおかあさんが、石を投げている。もちろん怪我しないように手加減しながら。

 おとうさんはこん棒で必死に石をはじいている。

 ぼくはふと思った。

 「せんそう」というものはこういうものなのかもしれない、と。

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【自作小説】バイバイ/異教徒と聖戦

「バイバイ」

「バイバイ」
 彼女が最後に発した言葉はこれだった。
 もう夢のなかでしか会えないあのひと。

 最後のくちびるの味はもうおぼえていない。
 お互いに若かった。どうして、あんなことになってしまったのか。わからない。

 たぶん、彼女もそう思っているはずだ。
 もう日曜日の夕方。

 窓から見える風景もどんどん暗くなる。
 夕飯の買い物にいかなければいけない。

 ぼくは外に出た。
 歩いていると、彼女と似た背格好のひとを目で追ってしまう。

 こんなところにいるわけがないとわかっているのに。
「大好きだったよ」
 突然、彼女にそんな風に言われた気がした。

 涙があふれそうになる。暗くなっていく街にむかって、叫びたかった。
 のどが痛くなるほど叫びたかった。

「  」

 街灯が自分をあたたかく包んでくれていた。



「異教徒と聖戦」

 今日、ぼくたちの村は、異教徒によって占領された。
 彼らは、自分たちの信仰の聖地を異教徒から取り戻すために、ぼくたちの家に攻めてきた。
 大人たちは、必死に戦ったが……。

 ぼくたちは奴隷となるようだ。
 家にあった財産はすべてもっていかれてしまった。
 村の代表だった村長さんが、敵の兵士たちによって壇上にあげられた。

「処刑前に、言い残したことはないか?」
 敵の兵士は、冷たく言い放つ。

「きみたちは、どうしてわれらの村を占領したのだ」
「それは、われらが神のためだ」

「“神”。それはわたしたちが、信じる神とは違うのか?」
「ああ、違う。おまえらの“神”は偽物の神だ。わたしたちが信じる神こそが、正真正銘の唯一神である」

「そうか。では、おまえたちに、真実を教えてやろう」
「真実?」
「わたしが、真の神だ」
 村長さんは笑っていた。

「異教徒の上、神を語る不届き者め」
 怒りの表情をあらわにした兵士は処刑の準備をはじめた。

「異教徒であるわしらも、お主たちが信じている神によって創られたのではないかな」
 村長さんはなおも口を開く。

「ええい、早くこの者の口を閉じらせろ」
「おまえたちは、いま、“神”を殺すのだ」
 刃が村長さんの首にむかった……。

-数百年後-
「あなたは神を信じますか?」
 駅でそんな宗教勧誘にあった。

(科学全盛の時代に、神とか信じるわけないでしょ)

 おれはスマホをみて、勧誘を無視した。
 おれは哲学者の言葉を思い出す。
「神は死んだ」

※小説家になろうにも投稿しています。
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