孤独のチカラ
さて、今日は齋藤孝の『孤独のチカラ』(新潮文庫)の感想です。
そもそも、「孤独」という言葉はあまりポジティブな意味で使われることはないと思います。しかし、この本ではこれを正の方向へ向かうチカラにしてしまう逆転の発想です。
自分の人生を歩むためには、自分というものと向き合い、自分の世界を深化させていく作業が必要なのだと思います。それができなければいつの間にか人生が過ぎ去っていく。
自分自身を深めていく時間が孤独でいる時で、この時間に教養を深めたり見つめなおしていく。あえて足りない状況に身を置いて、ハングリー精神を深めていく。そして、自己完結ができる独立人という人格が作られていくのだと思います。
さて、いつもながら好きな一文を引用して終わります。
「……書物を通せば、いつでも私たちは時代を超えて死んだ人と対話できるし、少なくともメッセージが聞ける。これは奇跡的なことなのだ。」(126頁)
そうか、もう君はいないのか
さて、次は城山三郎『そうか、もう君はいないのか』(新潮文庫)です。城山三郎といえば、経済小説や歴史小説ですが、これは亡妻との思い出を綴った手記です。城山作品は『官僚たちの夏』や『落日燃ゆ』、『黄金の日日』、『男子の本懐』など結構読んできましたが、私はこの手記が最も好きな作品です。
行きつけの図書館がたまたま休館日だったから生まれた偶然の出会い。夫人の第一印象を「間違って、天から妖精が落ちて来た感じ。」(12頁)と振り返っているのがとても印象的です。
すべて、楽しい思い出なのに、どこかで寂しさが見え隠れする。奥さんを亡くしたという現在の視点で、楽しかった日々を思い出すからなのでしょうね。
この本は作者の次女が後書きを書いているのですが、このタイトルも素晴らしい。「父が遺してくれたもの―最後の「黄金の日日」」がとても印象的です。両親の死が家族にとって最後の「黄金の日日」としているのがなんとも胸にきます。
この手記にあるすべての思い出が「黄金の日日」の出来事なのでしょうね。温かく優しい思い出たち。自分もこのような黄金の日日を作っていけるのかな?
ライフワークの思想
さて、最後は外山滋比古『ライフワークの思想』(ちくま文庫)の紹介です。著者の本は結構読んだのですがこれが一番好きです。
簡単に言ってしまうと「日本人は若い時に全盛期が来てしまい、その後枯れてしまう。ライフワークをもつことで晩年まで枯れない人生を送ろう」という考え方ですね。人生を通してやり遂げたいことを持つという考え方が大好きです。
一生の目標を持つというのはなかなか難しいです。しかし、作者は人生を酒造りに例えていてそれに励まされます。自分がやりたいライフワークを寝かして置き、立派な酒に育てていく。人生の晩年で、寝かせておいた酒と自分の人生で培った経験や知識を結びつけて、ライフワークを完成させていく。
自分もまとめてみたい歴史のテーマがあって、それをライフワークと心に決めています。まあ、歴史に専念するためには、お金が必要でとりあえずは金を稼がなくてはいけませんが(笑)。
この本が言うように自分の人生の全盛期を晩年にもっていくことができれば素敵だと思いませんか?