『東大卒プロゲーマー』/『中国工場の琴音ちゃん』書評

はじめに

さて、今日の書評は『東大卒プロゲーマー』(PHP新書、ときど著)・『中国工場の琴音ちゃん』(一迅社)です。

本の虫のイラスト(男性)

『東大卒プロゲーマー』

 もうこの本はタイトルのインパクトが凄いですよね。自分も思わずタイトル買いをしてしまいました(笑)。東大卒の著者がいかにプロゲーマーになったのか?そもそもプロゲーマーとは何なのか?。日本ではまだなじみのない「プロゲーマー」に迫る一冊です。

 「プロゲーマー」とは何か?著者は「ゴルフのタイガーウッズいるでしょ?あれの、規模の小さいバージョンですよ」(18頁)としています。

 なるほどわからん(笑)。要は「企業とスポンサー契約を結び、そのスポンサー料と大会の賞金で生計を立てている」ゲーマーということです。

 ではどんな生活をしているのかと疑問に思うでしょう。それがとてもストイック。普通の会社員がはたらく時間と同程度ゲームの練習し、体力をつけるためにジム通いに励む毎日だそうです。

 著者のときどさんは東大卒で、自分の好きなことを職業にしている。一見、挫折なんか知らない人生のようにも思えます。でも、実はそうではないみたいです。いくつものハードルを乗り越え、今の居場所にたどり着いている。

 例えば、彼は格闘ゲームのプロですが、合理性や効率を求めて黄金パターンを見つけてそれを極めていくスタイルでした。しかし、このスタイルでは限界が来てしまう。理論だけの観戦していて面白くないスタイルの限界。そのスランプを乗り越えるための苦悩。そして、障害を越えた先に見つけた解答とは何か。それがカッコイイのでぜひ読んでほしい一冊です。

『中国工場の琴音ちゃん』

さて、次は井上純一『中国工場の琴音ちゃん』(一迅社)です。著者は『中国嫁日記』という4コママンガブログで大人気な方ですね。今回は日本人が経営する中国のフィギュア工場が舞台。

 「日本のオタク産業はこういう工場が支えているんだな~」ととても勉強になりました。しかし、中国人の労働意識はとてもシビアです。完全な文化の違いですね。

 例えば、旧正月の連休で里帰りした工員たち。なんと7割が帰ってこない(笑)。他にも、一つの工場で長く勤めて倒産したらどうするんだとばかりにライバル企業にどんどん転職するなどなど。まるっきり日本の環境とは違うので読んでいて驚くことばかり。

 一番好きなエピソードを紹介します。
 
 中国で反日デモが盛んだったころ、舞台となる工場でもデモをやるという話が出た時の工員の一言。

  「愛国は素晴らしい。でも、国はお前をそんなに愛してないぞ。働け。」(67頁)

 工場を壊したら、給料がもらえないだろうという一言。非常にシビアです。


 

【書評】『老子』(講談社学術文庫)

『無知無欲な人生とは何か?』
(感想)
さて、私が一番好きな思想書『老子』(講談社学術文庫、金谷治)の感想です!。年末に毎回読み返しております。これを読み返さないと年は越せないという風物詩。

中国古代の思想書というと『論語』がまず第一にくると思いますが、自分は断然『老子』派です。『論語』は思想書というよりも、なんだか政治学に近いものを感じてしまい少し苦手なんです。人をどうのように組織し、統率するか。そんな風に読めてしまい、変人で自由を愛する私はその外にいたいと思ってしまう。なんとなく権力者側の話みたいで、縛られる側の自分にはピンと来ないのかもしれません。

そう、そんな人の受け皿になるのが『老子』。「権力」や「人間関係のしがらみ」、そこから距離を置く思想。いらないものを捨てていく思想、それが『老子』だと考えています。

この考え方って仏教とかとかなり近しいものを感じます。まあ、この考え方は森三樹三郎の『老荘と仏教』(講談社学術文庫)の受け売りなんですが(笑)

さて、『老子』の中で好きな一文を二つ引用してみたいと思います。

天長地久。天地所以能長且久者、以其不自生、故能長生。

(書き下し)
天は長く地は久し。天地の能く長く且つ久しき所以の者は、其の自ら生ぜざるを以て、故に能く長生す。

(訳)
天は永遠であり、地は久遠である。天地の大自然がそのように永久の存在を続けていけるのは、天も地も無心であって自分で生き続けるようなどとはしないから、だからこそ長く生きつづけることができるのだ。
(32-33頁)

為学日益、為道日損。損之又損、以至於無為。無為而無不為。

(書き下し)
学を為せば日々に益し、道を為せば日々に損ず。これを損じて又た損じ、以て無為に至る。無為にして為さざるは無し。

(訳)
学問を修めていると、その知識は一日一日と増えてくるが、「道」を修めていると、一日一日とその知識は減ってゆく。減らしたうえにまた減らし、どんどん減らしていって、ついにことさらなしわざのない「無為」の立場にゆきつくと、そのしわざのない「無為」のままでいて、それがすべてのことをりっぱになしとげるようになる。
(153-154頁)

自分の持つ執着をどんどん捨てていくことの魅力。「エゴ」というものが自分をどこまでも苦しめている。だからこそ流れに身を任せることも必要なのだと読んでいてはじめてわかりました。夏目漱石ではないけど「則天去私」という心境はこういうものなのかもしれません。

 

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