『 イワン・イリッチの死 』・『獄中からの手紙』書評

はじめに

今回の書評は。トルストイ『 イワン・イリッチの死 』 ガンディー『獄中からの手紙』の二冊について書いていきたいと思います。

『 イワン・イリッチの死 』

死という魂の解放

 さて、今日はトルストイ『イワン・イリッチの死』の感想です。

 タイトルが少し危ない感じになってしまいました。

 この作品は、ロシアの官吏が不治の病におかされ、死にいくまでを描いた小説です。

 目前に控えた死への恐怖と病魔によって引き起こされる激痛。

 とても重苦しい小説です。

 生々しい苦痛がずしり、ずしりと伝わってくる。

 しかし、最後にある苦痛からの解放。

 この瞬間に一気にすべてが解き放たれる感覚。

 この感じがやっぱりトルストイだな、読んでいてよかったなと思います。

 最後の瞬間、主人公が苦痛から解放され、死に喜びをおぼえるシーンがとくに印象的です。

 単純な苦痛からの解放ではなく、今まで自分を制限していた肉体との決別。

 そして、広がる魂の世界。

 そこにたどり着いた喜び。

 無限の連鎖によって、引き起こされる「魂の不死」。

 トルストイ作品の味わいが濃縮されております。

 魂の不死について語ると長くなるので、過去のこの記事を読んでください(笑)

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『獄中からの手紙』

完全なる無私とそこからもたらされる真理

 さて次はガンディー 森本達雄訳『獄中からの手紙』(岩波文庫)を紹介します。

 この本は一九三〇年に刑務所に収監されたインド独立の父ガンディーが弟子に宛てた手紙をもとにしたもので、彼の思想が凝縮された一冊です。

 多くの東洋思想の根幹には、「捨てる」ということがあると思います。例えば、仏教や老子、夏目漱石、『菜根譚』などなど。その中でガンディーは最も「我」というものを捨て去ることを目指した人だったのだと思います。特にアヒンサー(非暴力)を「愛」と定義し、それを直接的な暴力だけではなく、精神的な嫉妬や独占欲まで広げているのが面白いです。そこまで捨て去ることができれば、「無私」という境地にたどり着けますね。

 その無私というものを持ちえたガンディーだからこそ、インド独立の父という象徴になることができたのだと思います。手っ取り早く独立できる「武力」というものを用いず、あくまで「愛」を全面に押し出すことで目的を達成させる。無私の境地にたどり着けた人物だからこそ取り得た独立だと思います。

 仏教といった捨てる思想を生んだ土地で、その思想の結晶となった人物が活躍したのは運命的なものを感じますね