目次
はじめに
ということで今日は二作品の書評を投稿します。
『影をなくした男』・ 『いやいやながら医者にされ』です。ネタバレがあるのでご注意ください。
影をなくした男
さて、今日の感想はシャミッソーの『影をなくした男』(岩波文庫)です。メルヘンタッチな作品でありながら考えさせられる作品です。ネタバレ有の感想なのでご注意ください。
(あらすじ)
君の悪い灰色の服の男に影をゆずって欲しいと頼まれた主人公。影と引き換えに幸運の金袋を得た主人公は、大金持ちになるものの、影がないという理由から周囲の人びとから孤立していく。
(感想)
本来あるべきはずの影を失った男の物語。彼は影とは引き換えに大金を得ることができたものの、周囲からの迫害を受けていく。普通という感覚から、影がないというだけで差別を受けていくというのは皮肉なものです。しかし、「肌の色」など生きていく上では些細なように思えることから、壮絶な悲劇を作ってきた人間という生き物の本質のようなものなのかもしれません。
ただ、この迫害が、ある意味では主人公を変えたというのも事実だと思います。普通(=影)というものを失ったことで、普通ではない自分、そして普通だった自分を苦悩しながらも見つめなおしていく。最終的に、魔法の靴を手に入れた彼は、それを利用して世界各地の自然の研究に没頭していく。塞翁が馬といえるのかもしれません。苦悩し傷ついた彼が見る光。トルストイの作品でもよく登場する構図ですが、この流れが自分は一番好きです。すべてを受け入れたからこそ、見ることができる光なのだと思います。
冷酷な世界に対して、自分はどう生きるべきなのか。とても考えさせられる一冊です。
いやいやながら医者にされ
次はモリエールの『いやいやながら医者にされ』(岩波文庫)です。少しだけ医学を知っている木こりが、夫婦喧嘩の仕返しに、医者に仕立てられ、金持ちの病気を治す羽目になるドタバタ劇です。
とてもテンポがよくてスイスイ読んでしまう。「俺は医者じゃない」と必死に否定するのに、謙遜だと勘違いされてしまう木こり。適当に診察したら治ってしまう病気。コントみたいな展開。
ただ、職業や地位といったことに固執している人々を皮肉っているように思えます。いくらでも偽ることができるステータスという虚構に踊らされる人々。人という中身を見ないで、価値を決めてしまう愚行への皮肉。
立場が変わる、地位が低くなるとコロコロ掌を返すことへの痛切な風刺が効いている作品です。
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