「バイバイ」
「バイバイ」
彼女が最後に発した言葉はこれだった。
もう夢のなかでしか会えないあのひと。
最後のくちびるの味はもうおぼえていない。
お互いに若かった。どうして、あんなことになってしまったのか。わからない。
たぶん、彼女もそう思っているはずだ。
もう日曜日の夕方。
窓から見える風景もどんどん暗くなる。
夕飯の買い物にいかなければいけない。
ぼくは外に出た。
歩いていると、彼女と似た背格好のひとを目で追ってしまう。
こんなところにいるわけがないとわかっているのに。
「大好きだったよ」
突然、彼女にそんな風に言われた気がした。
涙があふれそうになる。暗くなっていく街にむかって、叫びたかった。
のどが痛くなるほど叫びたかった。
「 」
街灯が自分をあたたかく包んでくれていた。
「異教徒と聖戦」
今日、ぼくたちの村は、異教徒によって占領された。
彼らは、自分たちの信仰の聖地を異教徒から取り戻すために、ぼくたちの家に攻めてきた。
大人たちは、必死に戦ったが……。
ぼくたちは奴隷となるようだ。
家にあった財産はすべてもっていかれてしまった。
村の代表だった村長さんが、敵の兵士たちによって壇上にあげられた。
「処刑前に、言い残したことはないか?」
敵の兵士は、冷たく言い放つ。
「きみたちは、どうしてわれらの村を占領したのだ」
「それは、われらが神のためだ」
「“神”。それはわたしたちが、信じる神とは違うのか?」
「ああ、違う。おまえらの“神”は偽物の神だ。わたしたちが信じる神こそが、正真正銘の唯一神である」
「そうか。では、おまえたちに、真実を教えてやろう」
「真実?」
「わたしが、真の神だ」
村長さんは笑っていた。
「異教徒の上、神を語る不届き者め」
怒りの表情をあらわにした兵士は処刑の準備をはじめた。
「異教徒であるわしらも、お主たちが信じている神によって創られたのではないかな」
村長さんはなおも口を開く。
「ええい、早くこの者の口を閉じらせろ」
「おまえたちは、いま、“神”を殺すのだ」
刃が村長さんの首にむかった……。
-数百年後-
「あなたは神を信じますか?」
駅でそんな宗教勧誘にあった。
(科学全盛の時代に、神とか信じるわけないでしょ)
おれはスマホをみて、勧誘を無視した。
おれは哲学者の言葉を思い出す。
「神は死んだ」