【自作小説】台風の夜に/わたしはのっぺらぼう

台風の夜に(恋愛)

【本文】
「雨、強くなっちゃったね」
 わたしは彼に話しかける。
「うん」
「電車動いているかな?」
 答えがわかりきってることを聞いてしまった。
「動いてないだろう。泊まっていけよ」
「ありがとう」

 彼とは飲み会で出会った。あれからもう3か月。
 付き合っているようないないような不思議な関係。居心地はよいが、不安でもある。そんな関係。
 今日は宅飲みをしようと彼の家に遊びにきた。

 雨の音がどんどん強くなっていく。まるで世界がこの部屋だけになったようだ。
「台風がひどくなるまえに帰ろうと思ったんだけどな~」
 残ったチューハイを飲みながら、わたしはぼやく。

「おれももっと気にするべきだったよ。ごめん」

「いいよ、いいよ。楽しかったし」
 本音を隠しながらわたしは応じる。

「うん、今日も楽しかったよな。この前の水族館も」
「あの魚が美味しそうしか言ってなかった気がするよ」
「たしかに」
 ふたりで笑いあった。

 今日はたのしかった。彼と近くのスーパーにいって、お酒とつまみの材料を買ってきた。台所を借りての料理。じゃがいものチーズ焼きや簡単なサラダ。女子力のへったくれもない。でも、こんな未来があるのかなという期待感に包まれた幸せな時間だった。

「お酒をのんだから眠くなっちゃったね」
 彼はあくびをしている。
「そろそろ寝ようか」
 わたしは提案する。

「そうだね」
「うん」
 今日もなにもなかったかという複雑な気持ち。

「やっぱりわたしがソファーで寝るよ」
「お客様なんだから気にしないで」
 彼はやさしくつぶやく。

「ありがとう」
 彼のにおいに包まれて、ドキドキする。今日は眠れるかな。

「ねぇもう寝た?」
 わたしは定番の質問をする。

「……」
 彼はなにも言わなかった。寝ているのか、起きているのかわからない。

 雨戸が風で揺れている。

「大好きです」
 そう、わたしは小声でつぶやいた。



わたしはのっぺらぼう(ヒューマンドラマ)

【本文】
わたしはのっぺらぼう。

わたしの顔にはなにもない。

生まれたときには顔があった。

とてもかわいらしい顔だった。

お母さんはいつも泣いてばかりだった。

だから、よい子になろうと思った。よい子にならなくちゃいけなかった。

その日から、私は親や先生に逆らったことはない。

そして、わたしは顔を失ってしまった。

ある日突然顔がなくなってしまったのだ。

わたしは泣いた。目もないのに涙はでる。不思議だ。

そして、わたしは自分がなにもできないことに気がついた。

優等生だったのに、なにもできないことに。

わたしの顔はどこにいってしまったのだろう。

いまだに顔を探し続けている。

←前 次→

【詩】「滝」/「ふとん」/「氷川」

「滝」

きょう、滝をみた。

みずが激しく流れ落ちていた。
その衝撃で周囲を濡らす。
わたしは、みずのカーテンに包まれた。

きょう、滝をみた。

みずは、まるでカーテンのようだった。
滝の裏側にいったい何があるのだろうか。
わたしには、なにも見えなかった。

きょう、滝をみた。

とおくで彼女を眺めているのに、ぼくには近くにいるように感じた。
少しだけど、体にみずを感じられる。
それは、まるで心のシャワーだ。

きょう、滝をみた。

滝は凍っていた。
みずは流れない。
おおきな、おおきな氷の壁がそこにあった。

ああ、生きているんだ。
わたしはそう思った。

「ふとん」

わたしは、ふとんにもぐる。
もぐったふとんは、まだ外気と同じくらいに冷たい。
わたしは、その冷たさが好きだ。
今日の出来事を思い返す。

わたしは、ふとんにもぐっている。
もぐっているふとんは、少しずつ温かくなっていく。
冷たさとあたたかさが同居する不思議な空間だ。
現実と夢がそこでは、同居する。

わたしは、ふとんのなかにいる。
もうふとんのなかは、温かかった。
あたたかさは、わたしを夢の世界へと誘う。
もう、わたしはふとんのなかにはいなかった。

「氷川」

朝、川を見た。

薄い氷が、川を包んでいる。
ところどころわずかに隆起し、ひび割れる川をわたしは見つめた。
息を少しだけ外にだす。
少しずつ白い煙へと変わっていく。

朝、川を見た。

薄い氷が、川を包んでいる。
小さな川だ。
庭の芝生を見つめる。
白いじゅうたんに変わっていた。
それは、道路まで続いている。

朝、川を見た。

薄氷に向かって石を投げてみる。
簡単に割れた。
それと同時に、石ではない物体が水面を跳ねた。
川はまだ生きていた。

←前 次→



【自作小説】つぎはぎの記憶/来世

つぎはぎの記憶(ヒューマンドラマ)

【本文】
 私は記憶のつぎはぎができる。
 記憶のつぎはぎ。

 簡単に言ってしまえば、都合の良いことはおぼえることができるし、悪いことは忘れてしまえる。

 それも自分の意志で。
 例えば、学生時代、教師に怒られたとする。気分はとても落ち込むだろう。
 でも、わたしはそれを3秒も引きずらない。
 なぜなら、それを簡単に忘れてしまうことができるのだから。

 私は3秒後に嫌なことは忘れてしまう。
 そして、忘れたこと自体、記憶には一切残らない。

 だから、わたしのなかの思い出はすべてが素晴らしいものばかりだ。
 すべての恋が初恋同然だし、黒歴史にもだえることもない。

 ある日、わたしは街で見知らぬ男に話しかけられた。
「久しぶりじゃん。元気だった」
 こういうことはよくある。
 たぶん、嫌なことをされた友だちか元カレだ。

「そうだね。元気だった。そっちは」
 話をあわせる。

「あの時はごめんな、じつはあの時……」
「いいよ、もう忘れた」
 私は冷たく言い放つ。
「そっか、そうだよな」
「うん、じゃあまた」
「ああ、また」

 この記憶も、私は数秒後に忘れてしまうだろう。

 ※

 彼女はどこかに行ってしまった。
「あの時、けんかにしなければな……」
「プロポーズしようと思っていたんだ、おれ」
 聴こえないはずの彼女に向かっておれはつぶやいた。



来世(恋愛)

【本文】
「久しぶりにいつものところで会わない?」
 わたしは久しぶりに彼女を遊びに誘ってしまった。

 やってしまったという後悔と、「OK」がもらえた喜び。
 複雑な心境というのはこういうことをいうんだろうな。

 いつもの店で、彼女を待つ。
 世間からすれば、ルール違反の行為かもしれない。
 それでも、自分では我慢できなかった。

 大好きなダルマのようなウィスキーを飲みながら、彼女を待つ。
 待ち合わせ時間ピッタリに彼女は到着した。

「久しぶり。1年ぶりくらい?」
「そうだね。何飲む?」
「どうしようかな」
 2人で昔話に花が咲いた。

 たのしいひと時だった。

「それで?なにかあった?」
「なにかないと会っちゃダメ?」
「その言葉からして、なにかあったでしょ」
 すべてお見通しらしい。

「うん、その」
 言葉を濁しながら、かくごを決めた。

「今度、結婚することになったんだ」
「そう、それはおめでとう。ついにだね」
「うん、ありがとう」
 新居のこと。式の日取り。ポツポツと話していく。

 楽しい2時間だった。
 最寄りの駅で解散。いつも通りだ。

 最後に彼女はいたずらっぽく聞いてきた。
「ねぇ、わたしのこと好きだったでしょう?」
 おれは少し考えて、こう答えた。

「それは来世にでも、答えるよ」
 答えているようで、答えていない不思議な回答。

 ふたりにとってはそれで充分だった。

 お互いに笑いあった。さわやかな笑い声だった。
「それじゃ、来世で」
 ふたりは解散した。

←前 次→

【創作論】掌編創作の魅力を語る

ということで、今回は掌編創作の魅力を語りたいと思います。
なぜ、掌編なのか?

それは、私が掌編大好きだからです(笑)
もともと、掌編が書きたくて、ネット小説を書き始めました。
そういうこともあって、1年間で100編程度の掌編を書いておりますw

(幸運なことにたまになろうのランキング入りできることも)

ただ、掌編はネット小説では、本流とは言えませんね。なろうのカテゴリランキングでも、10位内に数百文字はほとんどないですし……。

だから、微力ながら、ここで魅力を大いに語って掌編人口を少しでも増やせればと思っています。

ちなみに、掌編とは、原稿用紙数枚程度の小説(300文字~1000文字くらい)を想定しています。
それでは、掌編の魅力を語っていきます。



1.書く時間が短くて済む

やはり、一番の魅力はこれですね。
すぐに書ける!

例えば、10万字超えの長編(文庫本1冊程度)。
これを書くとなると、かなりの決心と時間が必要となります。
話の繋げ方、増え続ける登場人物、回収しなくてはいけない伏線、下がり続けるモチベーション。
それを何カ月も、何年も……。

長編小説は、マラソンです。
自分との戦いをひたすら続けていかなくてはいけない。

しかし、掌編はそうじゃない。
掌編は、短距離走です。

アイディアを一つ考えて、登場人物を何人か作れば形にはなります。
おもしろいかは別ですが……汗。

オチを考えて、そこに至るまでの過程を書けば完成します。
数時間から1週間程度で、一作ができあがるのです。

2.すぐに読んでもらえる

掌編はすぐに読める、敷居が低い。
文庫本1冊以上の量を読むとなると、かなり時間がかかります。

でも、原稿用紙数枚なら?

10分程度で読み終わるのでは、ないでしょうか?
その程度の時間なら、読者さんもすき間時間を使って、気軽に読むことができますね。
さらに、感想も書きやすい。

なろうのような大手サイトに、何作か投稿すれば、感想などのフィードバックをもらえる確率はかなり高いと思います。
そうすれば、作者さんもモチベーションがあがり、新しい掌編を作りたくなる。
最高のスパイラルを作りやすくなりますね!

3.経験値が高い

RPG好きですか?
私は、ドラクエが好きです(笑)

RPGで、レベル上げをするとき、経験値が高い敵を倒すのが手っ取り早い。
そして、創作においてのメタルスライムは、掌編なのです。

なぜ、掌編が高経験値なのか?

漫画の神さま、手塚治虫は、「マンガをうまく書きたいなら、短編をたくさん書きなさい」と言っていたそうです。
これは小説にも言えるとわたしは思っています。

掌編は、オチがほとんど決まってから書き始めるので、途中で投げ出すことは少ないです。
そして、内容は起承転結に沿って進行していく。

物語に流れを作って、完結させるということはかなり難しいです。
実際に、投稿サイトでは、長編が完結する確率はかなり低いです。
起承転結の「起承」部分くらいで、挫折していることが多いと思います。
物語を終わらせるのは、至難の技です。

しかし、掌編は違う。

すぐに書けるのだから。

物語を作るのに、一番必要な流れをすぐに経験することができる。
何度も掌編を書けば、長編の挫折率はかなり抑えることができるはずです!
私も長編小説5作書いて4作は完結させております(一作は……)

そして、飛躍的に自分の構想力を伸ばすことができる。
トレーニングとしても有効な方法だと思います。

4.まとめ

以上のように、掌編を書くことは創作にとっていいことだらけです。
初心者の人も、長編を書いて挫折したことがある人も是非とも書いていただきたいと思っています。
そして、みんなで掌編を盛り上げましょう。

最後に番宣ということで、自分の掌編を宣伝して終わります(笑)
3分間で読める物語

よかったら読んでください!

←前 次→

【自作小説】不老不死の薬/革命家

不老不死の薬(歴史)

【本文】
「皇帝陛下、お望みの薬が出来上がりました」
 博士はわたしにひざまずいてそういった。
 運ばれてきたのは、それはとても輝かしい赤い個体であった。

「これにはどのような効果があるのかね?」
「おそれながら申し上げます、陛下。こちらはとある山奥で、とれた鉱物になります。熱すれば銀のように、輝かしいものになります。言い伝えによれば、これを服用することで、大地の力を体に蓄えることができるということです。さすれば、体の老化は止まり、体が鉱物のように頑丈となるでしょう」

「なるほど、それはすばらしいな。服用させていただこう。そちも飲むがよい」
 不老不死。
 なるほど体を老いることのない金属にしてしまえばよいのか。
 さすがは天才と呼び名が高い博士だ。

 ※
 1年後。

 はかせはしんだ。

 どうやらあの「くする」をのむのが、「おすかった」ようだ。
 
 わたしは「かかせ」よりも、わかい。

 ぜったいにでいじょうぶだ。

 すこし、はらがいはい。

 はやく、あの「くする」をのまなくては。



革命家(ヒューマンドラマ)

【本文】
7月9日

 俺たちは革命を目指している。

 おとなたちは、なにも変わろうとしない。

 世界の不公平には目をつむり、自分だけがよければそれでよいと本気で考えている。

 俺は、俺たちは、みんなが自由で公平な世界を創るのだ。

 あんな大人たちとは違うのだ。

 そのために、俺たちはデモをおこなうことなった。

 世界から不公平をなくすためのデモだ。

「政府がこれを認めるまで、おれたちは戦うぞ」と演説をすると、
 仲間たちが大きな歓声をあげてくれた。
 まるで、世界がひとつになったみたいな高揚感だ。

7月16日

 親からもらった仕送りが少なくなった。
 今月は少しピンチだ。
 でも、仲が良いメンバーとの飲み会は楽しい。

「この前の演説よかったな。警察と乱闘騒ぎになってけが人もでたけど」
「大義のためなら、多少の犠牲はしかたないよ。今度は国会に乗り込もうと思っている」
「いいな。おれも一緒にいくぜ」
 みんな威勢のよいことを言って楽しんだ。

 俺たちがいま、世界の中心にいる。多幸感に包まれた飲み会だった。
 
 ※

 ある日、わしは大学時代の日記をみつけた。とてもなつかしい思い出だ。
 しかし、結局、世界は変わらなかった。

 俺たちは普通に卒業して、普通に働いて、普通に退職した。
 いまでは年金暮らしである。

 世の中は不況が問題になっている。テレビのニュースでは、若者の貧困問題が特集されていた。
「まったく、さいきんの若者は情熱が足りんな」
 老いた革命家はそうつぶやいた。

←前 次→

【お知らせ】企画に参加します!

お知らせです!
11月17日午後10時に、「小説家になろう」で、帆ノ風ヒロさん主催の企画に参加させていただきます。

企画内容は、300文字小説です!

タイトルの通り、300文字以内の掌編をみんなで投稿するという企画で、今回は2度目の参加です。

もともと、小説家になろうには、掌編を投稿するためにはじめたので、参加できて嬉しいかぎり。
掌編創作は、ライフワークにしたいと勝手に考えているので、がんばりますよ~

ちなみに、『3分間で読める物語』の最新話として投稿する予定となっております。

こちらは、サイトにおいてある小説のもとになっているので、まだ投稿していない作品も読めますw

今回の企画では、お題が「羽根」ということで、私は解釈がたくさんできるヒューマンドラマを用意しています!
今回の参加者さんたちは、純文学のジャンルで参加する方々が多いので、たぶん異色作になる予定(毎回のことですが汗)

ということで、明日是非とも読んでみてください!
感想とかいただけたら嬉しいです(^^)/



【自作小説】侵略宇宙人/孤島にて

侵略宇宙人(SF、新作)

【本文】
「相変わらず、勉強熱心ですね」
 部下のAは、私に言った。
 
 我々は、マリウス星人。
 移民先の惑星を求める者たちだ。

 故郷を失った我々は、宇宙に散り散りとなり、新しい故郷を探している。
 そして、我々はたどり着いたのだ。

 新しい故郷となるべき惑星に……。

「課長は、ずっとあの惑星のデータを見ていますからね」
 私は笑って答える。

「あの惑星、原住民は《地球》と呼んでいるが、あれは我々の希望なのだ。今回の作戦は、絶対に失敗できないのだ」

「それで、どうやって、あの惑星を奪うのですか? やはり、武力制圧ですか?」
 Aは、若者らしく威勢がいいい。

「あの惑星の原住民をなめないほうがいい。確かに、 宇宙関連の技術はまだ、発展途上だが、軍事技術に関しては優れたものがある。レーダーを無効化する飛行機、恐ろしい威力を持つ核兵器、ネットワークシステムを混乱させる技術。すべてが、宇宙規模でみても、一級品だ。武力衝突したら、われらも大きな損害を出してしまうだろう」

「では、どうやって、あの星を……」
 私はニヤリと笑う。

「わからないのか?」
「はい」

「寝て待てばいいんだよ。そうすれば、やつらは自慢の軍事力で勝手に自滅してくれるよ。じゃあ、俺は二百年くらい昼寝してくるから……」



孤島にて(ミステリーホラー、新作)

【本文】
 私たち四人は、今、無人島に閉じ込められている。
 
 サークルの夏合宿。
 不審死した大富豪が所有していた無人島でのキャンプ。
 大学生のバカなノリの三日間になるはずだった。

 でも、それが私たちにとって恐怖の三日間になってしまった。

 最初の日の夜。
 Aは死んでしまった。

 夕食のカレーを作った後、海岸の散歩に彼は行くと言っていた。
 私たちは花火の準備と片付けをしておくねと笑顔で彼を送り出した。

 私は台所で、食器類の片付け。
 Bは、花火の準備。
 Cは、テントの準備をしていた。

 私は、仮の台所で包丁などを洗っていた。
 肉を切ったので、包丁を丁寧に洗う。
 
 そうしていると、 花火の準備をしていたBの悲鳴が聞こえた。
 私たちは急いで、Bのもとにむかった。

 Aは、海岸で腹から血を流して倒れていた。
 Cが、脈をとってみたが、彼は首を横に振るだけだった。
 恋人を失ったBは、泣き崩れていた。

「もしかすると、この島には俺たち以外の人間がいるのかもしれない」
 Cは、真っ青な顔をしてそういう。

 私たちもうなづいた。
 このサークルメンバーに殺人鬼がいるなんて信じたくはなかった。

「今夜は交代で見張りをしながら、寝よう」
 Cの提案に私たちは同意した。

 二時間おきの交代。

 異変が起きたら、みんなを起こす。
 木の枝、ベルトなど、なにか、武器になるものを必死に集めた。

「おい、起きろ」 
 Cが私を起こした。
 どうやら交代の時間らしい。

「変化は?」
「特になし。大変なことになったな」
 Cは責任を感じているようだった。
 この合宿は、彼が計画したことだからだ。

「Cくんのせいじゃないよ」
 私はそう言って慰める。

「ありがとう。そう言ってもらえると、少しは気持ちが軽くなる」
「Cくん。まだ寝ないの?」
「ああ」
 私たちはしばらく雑談をかわした。

「実はさ。俺、おまえのことが好きだったんだ」
「どうして、このタイミングで」
「言えるときに、言っておかないとさ」
 彼の目は潤んでいた。

 私たちは、少しずつ顔を近づける。
 彼の吐息が、私を温めた……。

「武器になるものをここに置いておくね」
 私は彼にそう言った。

 朝起きたとき、C君の姿はなか った。
 私は、Bと一緒に彼を探した。
 そして、太い木に首をつった姿の彼を見つけてしまった。
 私たちは、泣き崩れた。

 二日目の夜まで、私たちは抱き合ってすごした。

 Aは、半狂乱だった。
 私もずっと彼女に抱き着いていたためか、手首が痛かった。

「どうしたの?」
 Aは私に聞いてきた。

「ちょっと、手首をひねっちゃったみたい」
 私はそう答えた。

 しばらくすると、Aは顔色が真っ青になって震え始めた。

「どうしたの?」
 私は心配になって聞く。

「私にわかっちゃったの。誰がみんなを殺したのか」
「本当?」
「うん」
「それで、誰が犯人なの?」
「私は殺される」
 彼女はなにかに取りつかれたかの ように、テントを飛び出した。
 私はあわてて、彼女を追いかけた。

「逃げないと、逃げないと」
 彼女はそう大声で叫んでいた。

「どうしたの? ねぇ、Aってば」
 私は彼女を必死に呼び止める。

「あなたは呪われている」
 崖の端で彼女は私にそう言った。

「どういうこと?」
 私はAに手を伸ばした。
 彼女は、何も言わずに崖から身を投げた。

「あっ」
 崖には、私だけが取り残された。
 風で、私の赤いワンピースがなびいている。

「みんな、いなくなっちゃたな」
 私はそうつぶやく。
 もう、誰も返事をしてくれなかった。

←前 次→

【自作小説】海を求めた男/ば・く・だ・ん/詐欺師

海を求めた男(ヒューマンドラマ)

【本文】
 わたしは海をみたかった。
 我が故郷は山国である。

 あたり一面の緑と雪化粧。それはとても美しかった。
 わたしは故郷を愛している。

 だが、わたしは海を知ってしまった。
 青々とした美しいさと塩辛い水。ぜひともこれを見てみたい。

 家族は必死でわたしを引き留めた。それでもわたしはあきらめなかった。

 ある夏、ついにわたしは計画を実行した。わずかばかりの食料と水をもっての逃避行だ。
 海というものは東にあるらしい。わたしは東の方向にひたすら歩いた。

 1日、3日、1週間歩いた。
 しかし、山は続いていた。海はいっこうにみえてこない。

 途中、山賊に襲われ、わたしは命からがら逃げた。逃げた。逃げた。
 食料もほとんど無くなり、道中の親切な旅行者に塩漬け肉をわけてもらった。

 そして、わたしは今、山の頂上にいる。
 いったいいくつめの頂上かわからない。

 塩漬け肉をほおばり、水でながしこむ。
 しょっぱい肉と水が体にしみこんでいく。
 生きかえる。
 空を見上げた。雲ひとつない青空だった。

「海はこんなにそばにあったのか」
 わたしは清々しい気分でつぶやいた。



ば・く・だ・ん(ヒューマンドラマ)

【本文】
「火遊びはいけないよ」
 親はいつもぼくにこう言っていた。

 大人は本当に勝手だ。
 こどもに禁止しているのに、自分はライターやガスなど自由に使っている。

 ぼくだって火を使ってみたい。
 ぼくが口答えするといつもこう言う

「大人はいいの。火の使い方わかってるんだから」
 ある日、近所の家が火事になった。天ぷらの油の不始末らしい。
 家はとてもよく燃えていた。
 まるで、爆弾が爆発したみたいだ。

「大人だってちゃんと火をつかえてないじゃん」
 こころのなかでぼくはそうつぶやいた。

 そして、決心したのだ。
 ちゃんと火を使える大人になろうと。



詐欺師(ホラー、新作)

【本文】
 僕は人がいい。
 そんな風によく言われる。

 僕の短い人生の中で、何度も裏切られてきた。

 いじめの黒幕が親友だったり、恋人は僕のほかにも恋人がいた。
 彼らは、僕のお金が目的だった。

 だまされるたびに、周囲の人は僕に言うのだ。
「あなたは、優しすぎる」

 でも、それは間違っている。
 僕は、だまされているのではないのだ。
 僕は、彼らをだましているのである。

 すべては、僕の欲求のため……

 彼らが本性を明かしたとき、僕は高揚感に包まれる。
「ああ、これでまたひとり、僕は人を裏切ることができる」

 僕の服は、赤く染まっている。

※小説家になろうにも投稿しています。

←前 次→

【書評】『人生、惚れてこそ』(クレスト社)

天才たちが見ている地平

(感想)
 さて、今回は趣味の話を少し。はじめににも書いたように、自分は将棋が趣味です。実力は初段程度で、へっぽこなんですがね(笑)

 その趣味に関連して今回紹介するのは、米長邦雄(前将棋連盟会長、故人)と羽生善治(現竜王)の対談集です。『人生、惚れてこそ━知的競争力の秘密━』(米長邦雄 羽生善治共著、クレスト社)。

 羽生善治が七冠を制覇した熱気あふれた年に出版された一冊です。個人的に米長邦雄の著作がかなり好きで何冊か読んで影響を受けております。ぶっ飛んだ方だったのでいろいろ賛否はありますが、生き方や思考がかっこよくて華がありました。二〇一一年、当時最強のコンピュータに挑み敗れた時は大きなニュースにもなりました。彼の根幹にあるのは「勝負に生きるとはどういうことか?」実践的な勝負師の思想です。

 著作にはよく仏教の経典からの引用も多いので、そちら方面にもおそらく相当精通していたのでしょう。実際、この作品にも『法華経』、『維摩経』などから引用したエピソードが紹介されていました。

 いつもながら二つほど好きな文章を紹介します。

  (オウム真理教に対して)
  「結び付けてやるという人間を、絶対視したところが、不幸の始まりでしょう。中間に入って仲立ちをする人だって、お釈迦さまやシバ神や、あるいはキリストから見たら、未熟で愚かな人間の一人なんです。」(22頁)

 真理を求める道は大変苦行が続く行程となります。仲介者による安楽な道を選ぶことへの警報なのでしょう。真理のためには、自ら動き原典に触れていくことが必要になる。そしてもう一つ。

  「学ぶよりも捨てるほうがむずかしい。一生懸命に学んで、どんどん捨てなければ進歩はない」(51頁)

 前回、取り上げた『老子』にも近い発想だと思います。捨てることを恐れないこと。これが変化に対応していく一つの冴えたやり方ではないのでしょうか?

 将棋の棋士というのは大変な競争を勝ち抜いてやっとプロになれる。その競争を勝ち抜いた者たちがさらにつぶし合って、タイトルを争う。その競争の頂点に立ったことがある二人だからこそわかる本質を突いた議論。内容は古いですがとても刺激的です。

【詩】自作解説

いつも投稿している詩の解説です!

なろうでは『幼残香』というタイトルで投稿しています。



 

1.『幼残香』というタイトルについて

タイトルの『幼残香』というのは、わたしが考えた造語です。
「幼きころの感性を必死に集めて残った香」という意味合いで使っています。

はじめて、詩を書こうと思いついた時、なんとなくこどもごころに戻って書いてみたいと考えました。

しかし、わたしは成人の身。

ほとんど、幼少期の感性を失っています。

だから、思い出して、ひねり出して、なんとか集めたわずかな感性を文字にしております。

「どうか少しでも感性を集められますように」という願いをこめて『幼残香』というタイトルをつけました。

もうひとつのタイトル案として『幼残滓』というものもあったんですが、これはちょっと子供っぽくないので没となっています。

生まれてから、このかた、詩作など一切したことがありませんでした。

なので、完全に初心者の見様見真似になっています。

それでも、がんばって言葉を紡ごうと考えているので、よかったら読んでください。

わかりやすく、読みやすい詩というものをコンセプトに連載していきます。

2.簡単な方針について

前述のように、わかりやすい詩というものをコンセプトにしています。

なので、適宜、自作解説を入れていこうかなと考えております。

読み手の解釈を制限してしまいそうで、怖いんですが、わかりやすさ・意図を補完できたほうがいいのかなと……。

3.自作解説

「おとなって」

自分がこどものころ考えていそうなことをつづってみました。

書いてみると本当に嫌なこどもだったなと実感しております。

大人ってほんとうに偉いのか?が主題です。

次作も同じテーマになっていますが、やはり成長すればするほど、自分の限界というものを突き付けられてしまう。無数の選択肢をもつこどものほうがすごいんじゃないか。限界なんて、ないんじゃないか。

そんなことを考えながら、作りました。

②「難問」

難しいことを考えるひとが、大人のなかでは地位が高い。

じゃあ、この詩の最後の質問に対して、偉い人は答えることができるのか。

それは難しいんじゃないかなと思い書きました。

つくづく、わたしはひねくれております。

偉人が集まって、社会が発展していく。

ただ、社会の発展は、ひとの暴力性まで高めていくような気がします。

偉い人が作った世界は、本当にひとを幸せにしてくれるのか。

わたしは疑問に思ってます。

③「ダンボールの中のきぼう」/「青い空」

これは二作でセットです。

「ダンボールの中のきぼう」は、ダンボールをこどもの将来の比喩としてみました。

おもちゃ、お菓子、ようふく……。

詰まっているものはみんなが喜ぶ希望ばかり。

自分の将来は明るいと確信している幸せな子供たちを描いています。

対になるのが、「青い空」です。

戦禍に巻き込まれたこどもを主人公に描いております。

空≒将来が、青く美しいと信じながらも、現実の刃に傷だらけになっていく。

環境というものが変われば、「ダンボール」のなかにも希望を感じていたこどもでさえもこうなっていく。

②の世界が行き着く先になにがあるのか。

それともリンクしています。

 

ということで、とりあえず解説はここまで。

残りの解説はまた、後日に!