【自作小説】つぎはぎの記憶/来世

つぎはぎの記憶(ヒューマンドラマ)

【本文】
 私は記憶のつぎはぎができる。
 記憶のつぎはぎ。

 簡単に言ってしまえば、都合の良いことはおぼえることができるし、悪いことは忘れてしまえる。

 それも自分の意志で。
 例えば、学生時代、教師に怒られたとする。気分はとても落ち込むだろう。
 でも、わたしはそれを3秒も引きずらない。
 なぜなら、それを簡単に忘れてしまうことができるのだから。

 私は3秒後に嫌なことは忘れてしまう。
 そして、忘れたこと自体、記憶には一切残らない。

 だから、わたしのなかの思い出はすべてが素晴らしいものばかりだ。
 すべての恋が初恋同然だし、黒歴史にもだえることもない。

 ある日、わたしは街で見知らぬ男に話しかけられた。
「久しぶりじゃん。元気だった」
 こういうことはよくある。
 たぶん、嫌なことをされた友だちか元カレだ。

「そうだね。元気だった。そっちは」
 話をあわせる。

「あの時はごめんな、じつはあの時……」
「いいよ、もう忘れた」
 私は冷たく言い放つ。
「そっか、そうだよな」
「うん、じゃあまた」
「ああ、また」

 この記憶も、私は数秒後に忘れてしまうだろう。

 ※

 彼女はどこかに行ってしまった。
「あの時、けんかにしなければな……」
「プロポーズしようと思っていたんだ、おれ」
 聴こえないはずの彼女に向かっておれはつぶやいた。



来世(恋愛)

【本文】
「久しぶりにいつものところで会わない?」
 わたしは久しぶりに彼女を遊びに誘ってしまった。

 やってしまったという後悔と、「OK」がもらえた喜び。
 複雑な心境というのはこういうことをいうんだろうな。

 いつもの店で、彼女を待つ。
 世間からすれば、ルール違反の行為かもしれない。
 それでも、自分では我慢できなかった。

 大好きなダルマのようなウィスキーを飲みながら、彼女を待つ。
 待ち合わせ時間ピッタリに彼女は到着した。

「久しぶり。1年ぶりくらい?」
「そうだね。何飲む?」
「どうしようかな」
 2人で昔話に花が咲いた。

 たのしいひと時だった。

「それで?なにかあった?」
「なにかないと会っちゃダメ?」
「その言葉からして、なにかあったでしょ」
 すべてお見通しらしい。

「うん、その」
 言葉を濁しながら、かくごを決めた。

「今度、結婚することになったんだ」
「そう、それはおめでとう。ついにだね」
「うん、ありがとう」
 新居のこと。式の日取り。ポツポツと話していく。

 楽しい2時間だった。
 最寄りの駅で解散。いつも通りだ。

 最後に彼女はいたずらっぽく聞いてきた。
「ねぇ、わたしのこと好きだったでしょう?」
 おれは少し考えて、こう答えた。

「それは来世にでも、答えるよ」
 答えているようで、答えていない不思議な回答。

 ふたりにとってはそれで充分だった。

 お互いに笑いあった。さわやかな笑い声だった。
「それじゃ、来世で」
 ふたりは解散した。

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